• 練習・楽しみ方

【ベートーベン 交響曲一覧表】1曲ずつ楽曲解説・作曲背景も合わせてご紹介◎

Written by
2024.04.25
どれみ
【執筆・監修】どれみ

音楽大学を卒業しました。現在は自宅でピアノ教室を開いており、4歳から大人まで幅広い年齢層の生徒さんを教えております。 また、ピアノと合わせて文章を書くのも好きです。ピアノの魅力を多くの皆様にお伝えできる記事をお届けしたいと考えております。

目次

  1. ベートーベンの交響曲一覧表
  2. 1曲ずつ解説◎
  3. 交響曲第1番ハ長調作品21
  4. 序奏で始まる第1楽章
  5. 優雅な第2楽章
  6. 第3楽章は大胆な展開のメヌエット
  7. パワー全開の第4楽章
  8. ヨーロッパはナポレオン戦争に巻き込まれる
  9. 交響曲第2番二長調作品36
  10. 1番よりも大胆な序奏で始まる第1楽章
  11. 美しいメロディーの第2楽章
  12. 軽快な第3楽章
  13. 問いかけているような第4楽章
  14. 一時的に平和が訪れる
  15. 交響曲第3番変ホ長調作品55「英雄」
  16. 期待感でワクワクしたような第1楽章
  17. 哀しみを帯びた第2楽章
  18. 明るいスケルツォの第3楽章
  19. 変奏曲を用いた雄大な第4楽章はホルンが主役?
  20. ハイチ革命とナポレオンの皇帝即位
  21. プロイセン王子ルイ・フェルディナントをイメージしたという説もある
  22. 交響曲第4番 変ロ長調 作品60
  23. 闇の中で光を見出すような第1楽章
  24. 符点のリズムが印象的な第2楽章
  25. トリオが2回ある明るく軽妙な第3楽章
  26. ノリの良い第4楽章
  27. ナポレオンによるベルリン勅令
  28. 交響曲第5番 ハ短調 作品67
  29. 運命が扉を叩く?第1楽章
  30. ゆるやかで力強い第2楽章
  31. 暗さの中にも希望があるような第3楽章
  32. 明るく前向きな第4楽章
  33. アイラウの戦い
  34. 交響曲第6番 ヘ長調 作品68「田園」
  35. 幸せいっぱいの第1楽章
  36. 小川の情景が見えるような第2楽章
  37. 楽し気に展開される第3楽章
  38. 巧みな自然描写の第4楽章
  39. 嵐の後の静けさを表現する第5楽章
  40. ナポレオンが世界を戦争に導く
  41. 「のだめカンタービレ」で有名になった、交響曲第7番 イ長調作品92
  42. 「のだめカンタービレ」のメインテーマ第1楽章
  43. 初演で好評だった第2楽章
  44. 明るく軽快な第3楽章
  45. 華やかで熱狂的なフィナーレ第4楽章
  46. ナポレオンの極盛期・オーストリア皇女との結婚
  47. 交響曲第8番 ヘ長調作品93
  48. 序奏のない第1楽章
  49. 愛らしい第2楽章
  50. 不滅の恋人を意味するような第3楽章
  51. 表情豊かな第4楽章
  52. ロシア戦役
  53. 交響曲第9番 ニ短調 作品125
  54. インパクトのある第1楽章
  55. ティンパニが活躍する第2楽章
  56. 静かな祈りのような第3楽章
  57. 「歓喜の歌」の第4楽章
  58. ナポレオンが亡くなった後の世界情勢
  59. 交響曲の中で名盤とされてる曲は?
  60. ウィーンフィルのベートーヴェン交響曲全集では第5番・第6番
  61. 若いながらも実力派の指揮者ネルソンス
  62. ウィーンフィルの響きを感じる5番・6番
  63. ベートーベンに影響を受けた後世の作曲家
  64. 隣に埋葬してほしいと懇願したシューベルト
  65. ベートーベンを訪ねた子供時代のリスト
  66. ベートーベンの研究を続けたシューマン
  67. 第九に影響されたワーグナー
  68. ベートーベンの後継者と言われたブラームス
  69. 合唱付きの交響曲第2番「復活」を作曲したマーラー
  70. 偉大なるベートーベンの交響曲に耳を傾けてみよう

ベートーベンというと、交響曲を思い浮かべる人は多いのではないでしょうか。
第九や「運命」、のだめカンタービレで有名になった7番の他にも、素晴らしい曲があります。

記事ではベートーベンの交響曲をすべて解説、交響曲の中で名盤とされている曲を取り出してみました。
ベートーベンの世界に触れてみましょう。

ベートーベンの交響曲一覧表

ベートーベンの交響曲を一覧表にしてみました。
作曲年・作曲時のベートーベンの年齢も記載してあります。

作品名 作曲年 作曲時の年齢
交響曲第1番 1799~1800年頃 29~30歳
交響曲第2番 1801~1802年頃 31~32歳
交響曲第3番「英雄」 1803~1804年頃 33~34歳
交響曲第4番 1806年頃 36歳
交響曲第5番「運命」 1807~1808年頃 37~38歳
交響曲第6番「田園」 1808年頃 38歳
交響曲第7番 1811~1813年頃 41~43歳
交響曲第8番 1812年頃 42歳
交響曲第9番 1822~1824年頃 52~54歳

1曲ずつ解説◎

1曲ずつ楽章ごとに解説していきます。
併せてyoutube動画・歴史的背景も紹介しますので、曲を聴く際に参考にしてください。

交響曲第1番ハ長調作品21

まずは交響曲第1番です。
運命や第9のように誰でも知っているような華やかさはありませんが、ベートーベンの大物さを物語っている威厳のある曲です。
ハイドンやモーツァルトといった先輩の影響を受けながらも、ベートーベンの個性を確立しています。

序奏で始まる第1楽章

  • Adagio molto - Allegro con brio ハ長調 4分の4拍子 - 2分の2拍子

1楽章は序奏付きで、冒頭の和音は下属調の属七和音から始まっています。
テーマはハ長調で書かれているので、そのまま明るく堂々としたハ長調の旋律に導かれます。
全体的に弦楽器よりも管楽器が目立つので、優しさと力強さを兼ね備えた若々しいパワーがみなぎっているような感じです。
ベートーベンの若さのパワーを感じるような1楽章は、若者へのエールのように感じます。
もしかすると、崇拝するナポレオンへのエールの気持ちもあったのでしょうか。

優雅な第2楽章

  • Andante cantabile con moto ヘ長調 8分の3拍子

2楽章は1楽章とはうってかわり優雅な印象です。
カンタービレ(歌うように)の指示があるように、各楽器が歌うように旋律を奏でます。
筆者は、森の中の風のざわめきや小鳥たちの歌声のように感じました。
お散歩好きで知られているベートーベンなので、ウィーンの森の風景を思い浮かべながら着想を得たのかもしれません。
冒頭はフーガ(テーマを追いかける曲)風です。
そして、第1主題はモーツァルトの交響曲第40番2楽章の影響を受けていると言われています。

第3楽章は大胆な展開のメヌエット

  • Menuetto, Allegro molto e vivace ハ長調 4分の3拍子

メヌエット(3拍子の舞曲)の形式ですが、テンポ指定を見ると、スケルツォ(3拍子のテンポが速い曲)に近いです。
軽快な雰囲気の中にベートーベンらしい重厚さが垣間見えます。
次に来る最終楽章の準備をしているのかもしれません。
メヌエット形式をスケルツォ風に展開させる手法には、ベートーベンの技量のすばらしさに脱帽です。
若きベートーベンの意欲や野心が感じられます。

パワー全開の第4楽章

  • Adagio - Allegro molto e vivace ハ長調 4分の2拍子

序奏付きのソナタ形式です。
緩やかともとれる序章の後のテンポアップは見事な技量です。
徐々に現われてくる管弦楽の華やかなパワーは、ベートーベンならではのパワーアップを感じます。
そして、パワー全開の最終楽章は、聴く人を幸せ絶頂の世界に連れて行ってくれるような明るさに満ちています。
最後は交響曲第9番を思わせるような豊かな響きで曲が終了。
この曲の前にピアノソナタ「悲愴」で成功をおさめたベートーベンなので、ちょうど自信がみなぎっている頃なのかもしれません。
そんな彼の心情が表された最終楽章です。

ヨーロッパはナポレオン戦争に巻き込まれる

交響曲第1番作曲時の1799〜1800年は、ナポレオン戦争の真っただ中で、ヨーロッパは戦争に巻き込まれていました。
ナポレオン戦争とは、1796〜1815年に及ぶ戦争です。

曲が作られた1799年頃というと、1798〜1799年にかけてのエジプト遠征の頃にあたります。
ナポレオンはエジプト遠征でオスマン帝国に勝利しましたが、アブキール湾の戦いでは、イギリス軍に敗れました。
しかし、こののちナポレオンはパリに戻り、1799年にはブリュメール18日のクーデタ実権を握り第一統領になったのです。
1800年にはブルジョワや農民の支持を得て、オーストリアとの戦いに勝利しました。
このように1799〜1800年は、ベートーベンに崇拝されていたナポレオンが、徐々に権力を手に入れていった時期でした。

交響曲第2番二長調作品36

交響曲第2番は、第1番より大きな進歩を遂げています。
着想を得たのは、1800年頃とされているので、第1番と併用して作曲していたのかもしれません。
また、この曲は自身の手でピアノ三重奏曲にも編曲されているので、作曲者にとってお気に入りの曲だったと思われます。
当時オーケストラ曲を聴くには、多額な費用が必要でより多くの庶民に聴いてもらうため、小規模な編成にしたのでしょう。
こんなところにベートーベンの細やかな心遣いが感じられます。
初演は1803年頃、ウィーン近郊アン・デア・ウィーン劇場で開かれたベートーヴェン作品のみの演奏会でした。

作曲された時期は持病の難聴が悪化している頃でした。
さらに、ハイリゲンシュタットの遺書も書かれたと言われていますが、曲全体は明るく活き活きしています。

その理由として考えられるのは、1800年から1806年までカール・リヒノフスキー侯爵がパトロンとなり、経済的支援を受けていたこと・自然豊かなハイリゲンシュタットで暮らしていたことではないでしょうか。
つまり、病気の不安はあるけれども、お金の心配がなく大好きな自然に心が癒されていたのです。
ベートーベンの作曲への意欲はますます掻き立てられていたと思われます。

形式自体はハイドンの影響が色濃く見られますが、木管楽器や弦楽器の扱い方がベートーベンらしい個性を発揮してきたとも言われています。

1番よりも大胆な序奏で始まる第1楽章

  • Adagio molto ニ長調 4分の3拍子 - Allegro con brio ニ長調 4分の4拍子

1番よりも長く大胆な序奏で始まる第一楽章は活き活きとした生命力に満ち溢れています。
時折、第9を彷彿させる響きがあり、緊張感がみなぎります。
そして力強い第1主題はベートーベンらしいパワー、第2主題は憂いを帯びた美しさもこの曲に光と影を与えているようです。
筆者はこの1楽章を希望に満ちた旅立ちのように感じます。

美しいメロディーの第2楽章

  • Larghetto イ長調 8分の3拍子

歌曲にもなったことがあるという2楽章は、美しく穏やかな楽章です。
弦楽器から木管に受け継がれる第1主部は、風の音色や鳥のさえずりのようにも聴こえます。
ハイリゲンシュタットの自然をそのまま音楽に反映させているかのようです。
自然に囲まれたハイリゲンシュタットで、ベートーベンは難聴の不安をかき消すほどの癒しを得られたのかもしれません。
聴く人の心を和ませる優しさにあふれた旋律です。

軽快な第3楽章

  • Scherzo Allegro ニ長調 4分の3拍子

複合三部形式です。
ベートーベンが初めて交響曲にスケルツォを用いたのは、この作品でした。
また、トリオ部分は第9のスケルツォのトリルにも良く似ていると言われています。
やはり、第2番は後に作る交響曲を意識して作曲したのではないでしょうか。
この時期のベートーベンはあらゆる挑戦を試みていたのかもしれません。
そのような心意気が感じられる第3楽章です。

問いかけているような第4楽章

  • Allegro molto ニ長調 2分の2拍子

ロンドソナタ形式。
まるで聴く人に何か問いかけているような旋律が印象的な第4楽章です。
曲全体がこの問いかけでまとめられているのも面白いところ。
クライマックスに近づくにつれ、曲は激しさを増していき、明るく壮大に終わります。
特徴的なのは、コーダ(終局部)が全体の3分の1ほどの長さになっているところです。
ベートーベンがどうしても伝えたい思いを込めたのではないでしょうか。
ナポレオンを英雄視していたベートーベンなので、この時期のナポレオンの活躍を応援する気持ちも込めていたのかもしれません。

一時的に平和が訪れる

交響曲第2番が作曲された1802年、ナポレオンはイギリスとアミアンの和約を結びました。
ロシアやイギリスの政治的背景もあり、ここで和約を結んでおくことが大事と判断されたようです。
ベートーベンは崇拝するナポレオンの活躍を好ましく思っていた時期だったので、イギリスとの和約についても感心していたのかもしれません。
2番のあの穏やかで明るい曲風も、こうした世の中の動きに影響されたのではないでしょうか。

交響曲第3番変ホ長調作品55「英雄」

交響曲第3番は、英雄という名にふさわしく勇ましい雰囲気の大曲です。
イタリア語で「エロイカ」と呼ばれることも多いので、「エロイカ」と記憶している人も多いのではないでしょうか。

庶民の味方のヒーローとして、ナポレオンに尊敬の念を抱いていたベートーベンがナポレオンを称える曲として書いたとされています。
また、ハイドンやモーツァルトに代表される古典派からの脱却として、以下の点で有名な曲です。
・曲の長さ
葬送行進曲やスケルツォを楽章に取り入れた
・マーラーのような「自由に歌うホルン」を取り入れたオーケストレーション
・当時にないような雄大な曲想

1817年、詩人クリストフ・クフナーに自作で1番自信のある作品を問われたところ、即座に「エロイカ」と答えたという逸話も有名です。
彼自身、お気に入りの曲だったのでしょう。

期待感でワクワクしたような第1楽章

  • Allegro con brio 変ホ長調。4分の3拍子。ソナタ形式(提示部反復指定あり)

第1楽章は期待感でワクワクしたような感じで始まります。
しかし、すぐに深刻な調子に変わり、期待感とは裏腹に不安や焦りも出てくるような感じです。
また、ドミソの和音を分散させた第1主題は、モーツァルトのジングシュピール『バスティアンとバスティエンヌ』K.50(1767年の作)の序曲の主題に似ているという説もあります。
敬愛する先輩モーツァルトにも影響を受けたのではないでしょうか。

そして、短い第2主題はファゴットとクラリネットの和音やオーボエ・フルートに渡り、第一バイオリンに受け継がれます。

さらにラストは激しさを増し、大きな仕事をひと段落終えたかのような頂点に達したような感じで終わります。

哀しみを帯びた第2楽章

  • Marcia funebre: Adagio assai ハ短調 4分の2拍子 葬送行進曲

葬送行進曲の名にふさわしく哀しみを帯びた旋律が展開されます。
一説によると、ベートーベンは第2楽章が葬送行進曲になっているため、ナポレオンに献呈するには失礼と考え思いとどまったそうです。
尊敬する英雄に「葬送行進曲」は縁起が悪いと思ったのでしょうか。

しかし、葬送行進曲と言ってもだいぶ力強くエネルギッシュな曲想にも聴こえます。
特に後半の部分で「ダダダ・ダン」と鳴り響くティンパニは、雄大でベートーベンらしい響きです。
その後は長いコーダに入り、哀しみを引きずるかのように終わります。

明るいスケルツォの第3楽章

  • Scherzo: Allegro vivace 変ホ長調 4分の3拍子 複合三部形式

踊り出したくなるような明るいメロディのスケルツォです。
当時よく用いられていたメヌエットではなく、スケルツォというところが活気的です。

この楽章で注目されているのは、中間部のホルン三重奏
特にストップ奏法で奏でる第2ホルンは、当時としてはめずらしい難度の高い奏法で、ベートーベンの優れた作曲技法が見られると言われています。

そして、終結部は2分の2拍子も用いて軽快なメロディが奏でられます。
この曲の中では一番短く、すかっとした感じの楽章ではないでしょうか。

変奏曲を用いた雄大な第4楽章はホルンが主役?

  • Finale: Allegro molto 変ホ長調 4分の2拍子

終楽章がロンド風のフィナーレではなく、変奏曲が配置されるのも当時としては、めずらしいものでした。
4楽章は主題と10の変奏による変奏曲です。

しかし、第4変奏や第7変奏はソナタ形式の展開部と捉えられることもあり、変奏ではなく間奏と解釈されることもあります。
また、第10変奏もコーダと解釈し、変奏に数えないという説も存在しています。

主題はバレエ音楽『プロメテウスの創造物』の終曲やピアノのための変奏曲(通称:エロイカ変奏曲)にも用いられました。
ベートーベン自身が好んで使ったのではないでしょうか。

そして、終楽章においてもホルンを強く意識しており、第1ホルンが半音階の主題を奏でます。
この奏法は当時としてはめずらしいと言われており、ベートーベンのホルンへのこだわりが見えるようです。

最後は英雄を称えるかのように雄大に幕を閉じます。

ハイチ革命とナポレオンの皇帝即位

交響曲第3番が作曲された1803〜1804年は、ハイチ革命とナポレオンの皇帝即位がありました。

1803年4月、アメリカ合衆国はフランス領のルイジアナを買収しました。
それにより、奴隷制度が復活したため、黒人の怒りを買ったのです。
同年11月にヴェルティエールで戦争が起こり、フランス軍が大敗しました。
翌年の1月には、ジャン=ジャック・デサリーヌ指導の下でハイチ革命が起こり、フランス領サン=ドマングは、ハイチ共和国として独立。

そして、1804年にはフランスで、ベートーベンが崇拝するナポレオンが皇帝として即位しました。
これに腹を立てたベートーベンはナポレオンのために書いたとされる「交響曲第3番英雄」にペンを立てたと言います。
「やつはやはり俗物だったのか。」というセリフは有名です。
ベートーベンは庶民のために戦う英雄として、ナポレオンを尊敬していたからです。
権力のために戦うナポレオンは尊敬に値しないという意味と取れます。

しかし、この説に異を唱える専門家もいるので、真相はわかりません。

プロイセン王子ルイ・フェルディナントをイメージしたという説もある

プロイセン王子ルイ・フェルディナントは、フリードリヒ大王の甥で音楽の才能があったと言われています。
王子は1806年にイェーナの会戦で戦死しました。

ごく最近の説ですが、「英雄」はこの王子ルイ・フェルディナントだったのではないかと言われています。

元々の献呈先はナポレオンでしたが、最終的にはロブコヴィツ侯爵になりました。
ウィーン楽友協会にある浄書総譜は「ポナパルト」という題名の他に、ナポレオンへの献辞を消した跡があります。
そして、改題された「シンフォニア・エロイカ」の題名の他「ある英雄の思い出のために」と書かれた言葉が添えられていたそうです。

交響曲第4番 変ロ長調 作品60

標題のある第3番と第5番に挟まれた第4番。
ベートーベンの創作意欲が旺盛な時期に書かれたもので、比較的短期間で書かれた評価の高い作品です。
1806年の夏頃から着手し、秋には完成していたと言われています。

この時期には以下の有名な作品が作曲されていました。

  • ラズモフスキー四重奏曲
  • ピアノ協奏曲第4番
  • ヴァイオリン協奏曲
  • オペラ《レオノーレ》第2稿など

この曲に関する解釈を紹介します。
シューマン、ベルリオーズ、音楽学者のロバート・シンプソンの3者によるものです

  • シューマン

「巨人(北欧神話)にたとえられる第3番と第5番にはさまれた可憐なギリシアの乙女」
ギリシア神話より

  • ベルリオーズ

「スコア全体はきびきびとして陽気。
そして、この上ないほどの優しさを感じる」

  • シンプソン

「この作品の持つ気品がある。
『乙女』でも『ギリシア』でもなく、巨人の身軽さと滑らかさではないか。
ベートーベンの作品は、鋼のような筋肉が隠れている」

また、交響曲第4番は作曲当時の恋人から強い影響を与えられたという説もあります。
恋人の名はヨゼフィーネ・ブルンスヴィック。
ベートーベンの唯一の恋人と言われている女性ですが、身分違いの恋愛だったため、彼女の親族の反対にあい、うまくいかずに終わりました。
交響曲第4番はそんな恋愛の絶頂期に書かれたと考えられています。
スピードで書かれたことも、恋に夢中で幸せだったベートーベンの筆が進んだためではないでしょうか。

闇の中で光を見出すような第1楽章

  • 第1楽章 Adagio 変ロ長調(冒頭は変ロ短調)4分の4拍子 - Allegro vivace 変ロ長調 2分の2拍子、ソナタ形式(提示部反復指定あり)

序奏は暗く闇の中にいるような雰囲気ですが、だんだんと明るく軽快な調子になってきます。
主部は変ロ長調が明るさが全面にでてきているので、筆者は聴いているとほっこりした気分になります。
恋愛中だったというベートーベンの心境を考えると、片思いと思って気持ちが沈んでいたが、思いがけない両想いに気持ちが高ぶると言った感じでしょうか。
最後は短く簡潔なコーダで締めくくります。

符点のリズムが印象的な第2楽章

  • Adagio 変ホ長調 4分の3拍子 (展開部のないソナタ形式)

冒頭から符点のリズムが展開され、流れるようなメロディーがそのうえをたどるように響きます。
符点のリズムが全体を彩っているためか、ワクワクするような無邪気な明るさが漂います。
彼女へのあふれる想いが曲を通して伝わってくるようです。
また、最後に現われるティンパニの独奏は当時としてはめずらしいものでした。

トリオが2回ある明るく軽妙な第3楽章

  • Allegro vivace、トリオ(中間部)はUn poco meno Allegro 変ロ長調 4分の3拍子

複合三部形式 トリオが2回あるA-B-A-B-A'の形式の明るく軽快な感じの曲です。
温かみのある木管の音色が奏でる牧歌的なトリオが曲に優美さを与えます。
全体的にはスケルツォのような明るい軽妙な曲です。
幸せな両想いを楽しんでいた時期に書かれたことが手に取るように感じられます。

ノリの良い第4楽章

  • Allegro ma non troppo 変ロ長調 4分の2拍子 ソナタ形式(提示部反復指定あり)

最初から16分音符で飛ばしていくノリの良い第4楽章です。
嬉しくて踊り出してしまうような明るさも感じられます。
筆者はスカッと終わるようなさわやかさを感じました。
恋人との結婚を決意していたような心境だったのかもしれません。

ナポレオンによるベルリン勅令

交響曲4番が作曲され、ベートーベンが恋愛中である1806年、ナポレオンのベルリン勅令がありました。

1806年11月21日、ナポレオンはプロイセンの首都ベルリンに入城し、フランス皇帝として、ヨーロッパ各地に大陸封鎖令を発したとされます。
皇帝による命令は勅令というので、この命令を「ベルリン勅令」と呼んでいます。
ナポレオンは大陸封鎖令によって、イギリスを屈服させ、市場をフランスが独占しようとしたのではないかと言われています。

このように皇帝として力を持ったナポレオンに関して、ベートーベンは良からぬ思いを抱いていたのではないでしょうか。

交響曲第5番 ハ短調 作品67

「ジャジャジャジャーン」で知られる「運命」です。
「運命」はベートーベンがつけた標題ではありませんが、この通称が有名になりました。
クラシック曲の中で最も有名な曲の一つといっても過言ではないでしょう。

実際、ベートーベンの作品の中で曲に関する緻密な設計が、かなり高い評価を得ている作品です。
評価を得ているのは以下の点においてです。

  • 形式美
  • 暗闇から明るさに導くドラマチックな構成力
  • 主題の展開

関連作品として挙げられるのはピアノソナタ第23番「熱情」です。

「運命」という通称は秘書のアントン・シンドラーの質問に対するベートーベンの答えから付けられたとされています。
以下のような問答があったと考えられていますが、真相はわかりません。

シンドラー:「冒頭の4つの音は何を示しているのですか?」
ベートーベン:「運命が扉を叩く音だ。」

しかし、シンドラーはベートーベンの会話帳を改ざんした人物としても知られているので、こんな会話があったかどうかは疑問です。
また、ベートーベンの弟子カール・チェルニーは、ベートーベンが散歩中に聴いたキアオジという鳥の鳴き声から曲のヒントを得たのではないかと話しています。

このように逸話の多い交響曲第5番は第3番「英雄」の完成直後から、着手されたのではないかと言われています。
まず第4番を完成させ、第5番はより念入りに作曲したという説が有力です。
このころに作曲された曲は以下があります。

  • オペラ「フィデリオ」
  • ピアノソナタ第23番「熱情」
  • ラズモフスキー弦楽四重奏曲
  • ヴァイオリン協奏曲
  • ピアノ協奏曲第4番

運命が扉を叩く?第1楽章

  • Allegro con brio ハ短調、4分の2拍子、ソナタ形式(提示部反復指定あり)

誰もが知っているような有名な動機から入る第1楽章は、全体が「ジャジャジャジャーン」に支配されています。
この動機が演奏家によって解釈が分かれるのも面白いところです。
テンポ通りに「ジャジャジャジャーン」と入る指揮者もいれば、テンポを引っ張って強調するように「ジャジャジャジャーン」と鳴らす指揮者もいます。

第2主題はうってかわって緩やかな雰囲気です。
ホルンが第1主題から第2主題への転換を促すところも聴き映えする箇所です。
また、第2主題においても、第1主題の「ジャジャジャジャーン」のリズムが対旋律(主旋律をより目立たせるための旋律)として出てきます。
こうした動機の展開技法がベートーベンの優れたところと言われています。

ゆるやかで力強い第2楽章

  • Andante con moto 変イ長調 8分の3拍子 変奏曲

A-B-A'-B-A"-B'-A'"-A""-codaで構成されている緩徐楽章です。
穏やかで優しい雰囲気の第1主題、木管から金管に受け継がれる力強い第2主題がうまく対比されています。
こうした第2主題の力強さは、第1楽章を彷彿させるものです。

また、変奏曲はお手のものだったとされるベートーベンは、第2楽章に変奏曲を用いています。
テーマを巧みに展開させるプロの技をこの楽章でじっくりと楽しんでみてください。
尚、ピアノソナタ第23番「熱情」でも中間緩徐楽章は美しい変奏曲です。
交響曲第5番の影響からなのか、ピアノソナタに影響されたのかは、定かでありませんが、ベートーベンの好みが現われているのではないでしょうか。

さらにハ短調の作品の緩徐楽章に変イ長調を利用するのも、ベートーベンがよく取る手法の一つです。
有名なピアノソナタ第8番「悲愴」の第2楽章も緩やかな変イ長調を採用しました。

暗さの中にも希望があるような第3楽章

  • Allegro. atacca ハ短調、4分の3拍子、複合三部形式

暗い調子で始まる第3楽章ですが、厳しさの中にも希望を見出しているかのようにも聴こえます。

つまり、前向きに突き進んでいくような感じです。
ベートーベンの悩みが解決に向かっていったのでしょうか。
スケルツォ・トリオ・コーダという構成で曲が進行していきます。
子供時代に初めてこの3楽章を聴いたシューマンは「怖い」と感じたそうです。
また、ベルリオーズはトリオ部分を「象のダンス」と呼んだとか。
トリオではハ長調に転調し、チェロとコントラバスによる主題の展示があり、フーガの形式を採用しています。
最後はコーダがあり、そのままアタッカで次の楽章に入ります

明るく前向きな第4楽章

  • Allegro - Presto ハ長調、4分の4拍子、ソナタ形式(提示部反復指定あり)

第4楽章は3楽章から続いています。
3楽章での悩みが解消され、明るく前向きに生きていこうと決断したような感じのメロディー。
筆者はこの4楽章が一番好きです。
第2主題は運命の動機が用いられながらも、暗い感じにはなりません。
また、第3楽章に戻った感じになる部分もありますが、すぐに明るさが再現されるので、安心して聴けます。
最後は長いコーダに入り、明るさの絶頂の中で幸せに幕を閉じます。
ベートーベンの交響曲の中で、最後にフェルマータをかけて終えるのは、5番のみです。
何か強い決意の下で終えたような気もちになります。

アイラウの戦い

交響曲第5番が作曲された1807年には、アイラウの戦いがありました。
2月7日から8日にかけて東プロイセン南部の小さな村アイラウ付近でおこなわれた会戦ですが、冬季に発生したためか、ナポレオンが率いるフランス軍は苦戦を強いられたと言います。
ポーランドに逃げたプロイセン軍と援軍に現れたロシア軍に戦いを挑んだナポレオン。
しかし、吹雪や情報不足が容赦なく、兵士たちを苦しめました。
このように、世界はナポレオンによって、戦争へと進んでいきました。
ベートーベンは、そんな世界情勢をどのように見ていたのでしょうか。

交響曲第6番 ヘ長調 作品68「田園」

5楽章まである交響曲第6番を「田園」と名付けたのはベートーベン自身です。
本人が名付けるのは、交響曲では「英雄」ぐらいなので、めずらしいことです。
それだけベートーベンにとっては、思い入れのある曲なのでしょう。
各楽章についても作曲者本人によるタイトルがつけられています。

「田舎に到着したときの愉快な感情の目覚め」
「小川のほとりの情景」
「田舎の人々の楽しい集い」
「雷雨、嵐」
「牧歌 嵐の後の喜ばしい感謝の気持ち」

お散歩好き、自然好きで知られるベートーベンなので、大好きな田舎道を歩きながら、構想を練っていたのではないでしょうか。

「田園」は1807年の暮れから第5交響曲「運命」が完成した後の1808年の春から秋にかけて作曲されたと言われています。
「運命」で極度に緊張した気持ちを「田園」でほぐしていたのではないかという説もあります。
いずれにしても「田園」はベートーベン自身のお気に入りの作品ではないでしょうか。

幸せいっぱいの第1楽章

  • アレグロ・マ・ノン・トロッポ、ヘ長調、4分の2拍子 ソナタ形式

「田舎に到着したときの愉快な感情の目覚め」という標題があります。
標題の通り、幸せいっぱいの気持ちがみなぎっている第1楽章は、ノンストレスでのんびりした気持ちを表しているかのようです。

弦楽器の他、木管とホルンのみが使用されているシンプルな楽器構成です。
第1主題は弦楽器の優しく柔らかい音が心に響きます。
ベートーベン独特の暗闇の中の力強さが感じられないので、何となくほっとします。
このまま、この幸せが続いてほしいと願いたいようなのんびりした雰囲気で2楽章に引き継がれるような感じです。
最後はクラリネットとファゴットの重奏、ヴァイオリン、フルートが続き、全合奏で終わります。

小川の情景が見えるような第2楽章

  • アンダンテ・モルト・モッソ、変ロ長調、8分の12拍子 ソナタ形式

「小川のほとりの情景」という題名の第2楽章です。
バイオリンに現われるトリルは小鳥のさえずりを表しています。
さらに小鳥の描写は、コーダでは注釈入りになっており、以下のように示されます。
・フルート:サヨナキドリ(ナイチンゲール)
・オーボエ:ウズラ
・クラリネット:かっこう
実際にベートーベンがお散歩中に聴いた小鳥のさえずりかもしれません。

小川のせせらぎは以下の楽器で表しています。
・チェロとコントラバスのピチカート
・第2ヴァイオリン
・ヴィオラ
・独奏チェロ(2人が弱音器を付けて弾く)
加えて木管楽器の優しい音色が心を十分に癒してくれる第2楽章です。

楽し気に展開される第3楽章

  • アレグロ ヘ長調、4分の3拍子 複合三部形式

「田舎の人々の楽しい集い」という題名のスケルツォ楽章です。
弦のメロディーに木管が対応するので、話をしているように聴こえます。
こうした部分はベートーベンのすばらしいところではないでしょうか。
本当に田園地帯ののどかな場所で、人々が楽しく話をしているようです。

また、オーボエが奏でるメロディーにフォゴットが合いの手を入れる部分は、田舎の楽隊が居眠りしながら、演奏する様子を表していると言われています。
ベートーベンのユーモラスな部分が現われている箇所です。
最後はプレストでテンポアップし、アタッカで次の楽章に続きます。

巧みな自然描写の第4楽章

  • アレグロ ヘ短調 4分の4拍子

「雷、嵐」という題名のとおり、雷雨の場面を表しています。
聴く人を引き付ける見事な描写ではないでしょうか。

低弦が表す遠雷のようなトレモロ(速いパッセージ)、第2バイオリンが奏でる雷雨の激しさなど、まさに自然です。
加えて、木管や金管の優美なメロディーは、嵐のあとの静けさを表しているかのようです。
まさしく、暗雲のあとに広がる穏やかな晴れ間ではないでしょうか。
筆者は、聴いていると穏やかで温かい気持ちになってきます。
最後にフルートによる優美な上昇音型によって、次の第5楽章に行きます。
この巧みな技もベートーベンならではです。
5楽章への自然な橋渡しは、ぜひとも聴いておきましょう。

この楽章はベートーベンの激しい気持ちを雷雨にたとえているように感じます。
うまくいかなかった恋愛、期待外れのナポレオン、病気への不安など、この時期ベートーベンはさまざまな想いを抱えていました。

嵐の後の静けさを表現する第5楽章

  • アレグレット、ヘ長調、8分の6拍子 ロンドソナタ形式

「牧歌 嵐の後の喜ばしい感謝の気持ち」という題名が付いている第5楽章です。

冒頭はクラリネットの素朴な響きにホルンが応え、ヴィオラとチェロによる牧歌風の旋律が奏でられます。
続いて、チェロのピチカート(弦を指ではじく奏法)や第1バイオリンの第1主題が聴こえてきます。

トリオ部分は変ロ長調に転調し、クラリネットやファゴットが優しい音色を奏で、曲に彩りを添えるようです。
そして、フルートが奏でる第1主題の前奏があり、クラリネットが音色を響かせます。
やがて、弦楽器にメロディーが移り、ヘ長調の第2主題へと導かれていきます。

長いコーダが演奏され、第1主題の変奏となり、曲はクライマックスに導かれるようです。
最後は華やかに優しく全曲を終えます。
ベートーベンの自然への賛美が表現されている終楽章です。

ナポレオンが世界を戦争に導く

平和で幸せな田舎の風景を描いた交響曲第6番「田園」とは裏腹に、世界中で戦争が勃発していました。
1808年にはナポレオンとロシア皇帝アレクサンドル1世によって、ロシアがスウェーデンに圧力をかけることが容認されました。
それによって起こったのが第二次ロシア・スウェーデン戦争です。
この戦争でスウェーデンは敗れ、パリ条約により大陸封鎖令に参加することになりました。

やがて、スウェーデン国王カール13世はナポレオンの関係者であるベルナドットを養子にしたのです。
このようにして、ナポレオンは北欧との同盟を結ぼうとしたのですが、やがてベルナドットの裏切りにあい、北欧との同盟は解消されました。

ベートーベンは、こうした世界情勢に胸を痛めていたのではないでしょうか。

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「のだめカンタービレ」で有名になった、交響曲第7番 イ長調作品92

「交響曲第7番」は、ドラマ「のだめカンタービレ」のメインテーマとして有名になりました。
有名になったのは、ドラマの影響はもちろん、明るい曲想、のびやかなリズムが多くの人々の心を捉えたからです。
「のだめカンタービレ」が始まると、必ず流れたのが第1楽章でした。
ドラマで初めてこの曲を知ったという人が少なくないでしょう。
筆者もその中の一人です。

しかし、曲に対する評価は人それぞれです。

ワーグナー:「リズム動機の活用が素晴らしく舞踏の聖化である」
ウェーバー:「ベートーベンは精神を病んでいるのではないか」
ワインガルトナー:「他のどんな曲よりも精神的疲労が生じる」

初演は1811年から1812年にベートーベンの指揮で行われました。
初演は成功で2楽章はアンコールを求められたと言います。

「のだめカンタービレ」のメインテーマ第1楽章

  • Poco sostenuto - Vivace イ長調 4分の4拍子- 8分の6拍子 序奏付きソナタ形式(提示部反復指定あり)

この曲を聴くと二ノ宮知子原作の人気コミック「のだめカンタービレ」を思い浮かべる人は多いのではないでしょうか。
「のだめカンタービレ」は2006年にドラマ化、2007年にはアニメ化され日本中で大人気を博しました。
ピアノの才能がある個性的な主人公の音大生「のだめ」、相手役になる指揮者志望のカッコいい千秋先輩など、音大を舞台にした音楽ドラマは、見る人を飽きさせず、音楽の勉強にもなりました。

そんな「のだめカンタービレ」のメインテーマだった第1楽章なので、当時知らない人はいないほど大人気でした。

ダンスビート、オーボエのソロや長大な上昇音階などが特徴的な第1楽章です。
曲全体は軽快なリズムに満ちており、心が躍りワクワクするようなイメージ。
このリズムが主要部、再現部すべてに表現されているので、ワーグナーは舞踏の聖化と称賛し、ウェーバーなどは精神的にどうかしたのではないかと評価したのでしょう。

しかし、筆者は活き活きとしたリズム展開にしつこさは感じません。
むしろ、心地よいリズムが曲全体に流れているような気がします。
明るく楽しいドラマ「のだめカンタービレ」のメインテーマになったのも、心地よさのためではないでしょうか。

最後は弦と管の応答の末、一気になだれ込むように終わります。

初演で好評だった第2楽章

  • Allegretto イ短調 4分の2拍子 複合三部形式

初演で聴衆に好評だったとされる第2楽章です。
ワーグナーはこの楽章を「不滅のアレグレット」と呼んだそうです。
アレグレットは7番の中で一番遅い設定なので、インパクトが強いのかもしれません。
1楽章に比べて、暗い雰囲気のイ短調。
弦楽器の主題や哀愁を帯びた旋律は、心を打つものがあります。
この曲が作られていたとされる1810年、ベートーベンの恋人だったヨゼフィーネ・ブルンスヴィクがクリストフ・フォン・シュタッケルベルク男爵と2度めの結婚をしました。
最初の結婚で夫を亡くし、寡婦となったヨゼフィーネにベートーベンは想いを寄せており、ヨゼフィーネもベートーベンを愛していたようです。
しかし、身分違いの恋は実らなかったのです。
そんな失恋の哀しみが2楽章を彩っていたのでしょうか。

曲の最後は哀しみを残したような感じで終わります。

明るく軽快な第3楽章

  • Presto assai meno presto ヘ長調(トリオはニ長調)4分の3拍子 三部形式

トリオが2回現われる明るく軽快な第3楽章です。
1楽章にも似た踊り出したくなるようなリズムは、2楽章の哀しみとは対照的な雰囲気です。
また、中間部では哀しみを引きずるかのような重めの旋律も現れます。
しかし、すぐに第一主題が現れ、哀しみを打ち消すかのように躍動し、カラッとした調子で終わります。

華やかで熱狂的なフィナーレ第4楽章

いよいよフィナーレとなれば、曲の彩りが華やかになります。
そして、7番のフィナーレはかなり熱狂的で、2楽章のように同じリズムが繰り返されています。

本来は弱拍になるはずの2拍目にアクセントがあるのは、現代のロックやポップスと同じなので興味深いところです。
ベートーベンは時代の先駆者なのかもしれません。

第1主題はアイルランドの民謡「ノラ・クレイナ」のメロディーに影響されています。
また、主和音でなく属七の和音で始まるのも個性的です。
そして、第1楽章と同じようにコーダは低弦で同じメロディーを何度も繰り返します。
この時期、ベートーベンは「エリーゼのために」を作曲しています。
その献呈先とされているテレーゼ・マルファッティに求婚したものの断られました。

うまくいかない恋愛に失望する気持ちもあったのでしょう。
執拗なほどに同じメロディーを繰り返すことで、気持ちの高ぶりを表していたのかもしれません。

ナポレオンの極盛期・オーストリア皇女との結婚

交響曲7番が作られた時期は皇帝となったナポレオンの極盛期でした。
オーストリア皇女マリー・ルイーズと二度目の結婚をし、男児をもうけています。
ハプスブルク家の血を引くマリー・ルイーズとの結婚は、フランスの帝位の世襲のための政略結婚です。

この結婚のために、ナポレオンは子供ができなかった前妻ジョゼフィーヌと離婚しています。
しかし、愛のない結婚のためか、マリー・ルイーズはナポレオンが失脚すると、オーストリアの宮廷に戻り、彼の死後はすぐに再婚しました。

皮肉なことにマリー・ルイーズとの結婚後、ナポレオンの栄光には陰りが見えてきたのです。

数々の恋愛が実を結ばず、家庭的に恵まれなかったベートーベン。
同じように、栄光をつかみながらも、家庭的な幸せを得られなかったナポレオンに何か感じるものがあったのではないでしょうか。

交響曲第8番 ヘ長調作品93

ベートーベンにしては比較的小規模で作られた交響曲8番。
初演は、7番と一緒で1814年2月27日でしたが、人気が出たのは7番の方だったと言います。
ベートーベンとしては、複雑な心境だったのでしょう。
「聴衆が8番を理解しないのは、この曲が余りに優れているからだ。」
と不満を述べていたというエピソードが残っています。

小規模といえども、8番は独創性と工夫にあふれています。
ベートーベンとしては、力を入れて作ったと考えられます。
作曲時期から言って、7番と同時進行で作曲していたのでしょう。

また、作曲時期にはアントーニエという女性と不倫の恋の最中だったという興味深いエピソードもあります。
彼女宛てとされる「不滅の恋人」と書かれた熱烈なラブレターが、死後に発見されました。
そんな恋愛を反映してか、小規模ながらも活き活きとした交響曲に仕上がっています。
この曲のみ誰にも献呈しなかったのは、ベートーベンにとって密は密かな愛の思い出だったからではないでしょうか。

序奏のない第1楽章

  • Allegro vivace e con brio 4分の3拍子 ヘ長調 ソナタ形式(提示部反復指定あり)

序奏がないのはめずらしいことです。
いきなりトゥッティ(全奏者が一緒に演奏すること)で始まるので、違和感を感じる人もいらっしゃるのではないでしょうか。

ワルツのような第2主題、スフォルツァンド(その音を特に強くという意味の記号)の多用などの工夫が見られます。
短めにまとまっている楽章ですが、軽く流しているのではなく、あらゆる手法を採用した密度の濃い楽章です
筆者はきれいなドレスに身を包んだ女性をエスコートする男性像が目に浮かびます。
静かにこっそり終わるような結末は、不倫の恋へのうしろめたさでしょうか。

第5番や第9番を思わせる手法を取っているところも注目したいものです。
たとえば、5番の第1楽章を感じるところがあります。
第1主題と同じリズムの形があったり、提示部の反復があったりなど。
さらに第9番と同じように第1主題の動機で曲が終わります。
この時期にすでに9番の構想も練っていたのかもしれません。

愛らしい第2楽章

  • Allegretto scherzando 4分の2拍子 変ロ長調

キレキレの木管楽器から始まる第2楽章は愛らしい雰囲気です。
バイオリン・チェロ・コントラバスの対話のようなメロディーは、男女の楽し気な会話のようです。
恋人との楽しい時間を表現したのかもしれません。

一説によると、メトロノームの考案者メルツェルに贈ったカノン『親愛なるメルツェル』WoO 162の旋律を使用しているとも言われていますが、真相は定かでありません。
または、メトロノームの規則正しいリズムに何らかの着想を得たことも考えられます。

不滅の恋人を意味するような第3楽章

  • Tempo di Menuetto 4分の3拍子 ヘ長調 複合三部形式

第3楽章は交響曲の楽章で使用した唯一のメヌエットですが、「メヌエットのテンポで」という指示のみです。
余りにロマンチックなメロディなので、メヌエットにならなかったのではないかという指摘もあります。

なぜならば、中間部のホルンの牧歌的なメロディは、恋人からの手紙が届いたことを知らせるポストホルンに由来しているからです。
ポストホルンとは、郵便馬車が到着した合図なので、ベートーベンは彼女からの手紙が届いたかもしれないと胸を躍らせていたのかもしれません。
そんな不滅の恋人を意味するような第3楽章は、メヌエットというより愛の知らせのようです。

表情豊かな第4楽章

  • Allegro vivace 2分の2拍子 ヘ長調 自由なロンド形式

リズムや強弱の変化、度重なる転調など、表情豊かな最終楽章です。
嵐のような激しさがあるかと思えば、優美な旋律が聴こえてきたりします。
この当時の心境の変化の激しさを反映しているのでしょうか。

不滅の恋人とされるアント―ニエとは結ばれずに終わりました。
この交響曲の完成前に破局を迎えたとされているので、作曲中に何かあったのかもしれません。
彼女が夫との間の子供を妊娠した、ベートーベンが他の愛人を妊娠させたなど、さまざまな説があります。
そんな男女間のゴタゴタも影響している可能性もあります。

最後は盛り上がって終わりますが、何となく煮え切らないような感じです。

ロシア戦役

この曲が作曲された1812年にはロシア戦役がありました。
ベートーベンが崇拝するナポレオンがロシアに侵攻し、敗北、退却という一途をたどったのです。
この戦争はナポレオン戦争の転換点となり、兵力を激減させたと言います。
トルストイが書いた「戦争と平和」にも影響を与えたようです。

ベートーベンは、戦争を繰り返すナポレオンをどんな目で見ていたのでしょうか。
世界平和を高らかに歌い上げる第9番の構想は、このころから徐々に練り上げられていたと思われます。
戦争を繰り返す世界やナポレオンに非難の目を向けていたのかもしれません。

交響曲第9番 ニ短調 作品125

通称「第九」と呼ばれるベートーベン最後の交響曲第9番。
日本では年末に演奏されることが多いですね。
筆者は学生時代に合唱団に参加したことがあるため、思い出深い作品です。

ベートーベンの最高傑作として位置づけられ、西洋音楽史上においても、最も優れた作品として挙げられます。
特に第4楽章は独唱・合唱を伴うことでも有名です。
作曲当時としては画期的なセンセーションだったに違いありません。

歌詞に用いられたのは、シラーの詩『歓喜に寄す』。
主題は『歓喜の歌』として、原曲の歌詞のドイツ語が世界各国の言語に訳され、親しまれています。
人類最高の芸術作品として紹介されることも多いです。

ベートーベン以降も、声楽付き交響曲はそれほど作られていませんでした。
ベルリオーズ、メンデルスゾーン、リストなどが交響曲で声楽を取り入れましたが、ベートーベンほどの大曲ではありませんでした。
本格的な声楽付きの交響曲は、ベートーベンが第9番を作曲した70年後のマーラー作曲「交響曲第2番復活」です。

第9番のすばらしさは、合唱付きの4楽章のみではありません。
他に以下のポイントが考えられます。

  • 大規模な構成
  • 1時間超えの演奏時間
  • シンバルやトライアングルの使用
  • ロマン派を感じられる瞑想的な第3楽章

ベートーベンが第9番を作曲するきっかけになったのは、シラーの詞「歓喜に寄す」でした。
当時、ベートーベンは22歳の若者で、まだ交響曲第1番も作曲していません。
つまり、第9番は長い年月をかけて構想を練っていったのです。

作曲が開始されたのは、第7番から3年ほど経ってからと言われていますが、ベートーベンは旋律の使いまわしが多いので、部分的にはもう少し遡るかもしれません。
当初、ベートーベンは器楽のみの交響曲と声楽を取り入れた「ドイツ交響曲」の2曲を作曲する予定でした。
しかし、諸事情からこの2つを合わせ一つの交響曲にすることになりました。
それが交響曲第9番です。

この作品の献呈先については、逸話が残っています。
作品はロシア皇帝アレクサンドル1世に献呈することになっていたと言います。
しかし、アレクサンドル1世の崩御に伴い、プロイセン王フリードリヒ・ヴィルヘルム3世に献呈されることになりました。

献呈の下賜品として、ダイヤモンドの指輪が届けられましたが、ベートーベンはこの指輪を売却したと言います。
その理由としては、ダイヤモンドではなかった、鑑定の結果にベートーベンが怒りを爆発させたなど諸説あります。
たぶん、期待外れの物だったのでしょう。
対照的にフランス国王ルイ18世からの「ミサ・ソレムニス」予約譜購入の返礼品である金メダル(21ルイドール相当)は、終生手放さなかったそうです。

インパクトのある第1楽章

  • Allegro ma non troppo, un poco maestoso ニ短調 4分の2拍子 ソナタ形式

第1楽章の始まり方はインパクトがあり、聴く人を引き付けるものです。
弦楽器やホルンの音色が、かすかに聴こえ、だんだんと広がっていくような感じ。
ここを世界の創造ととらえる考え方があります。
やがて、さまざまな音が合体してかっこいい堂々とした第一主題に展開されていきます。
一回目はニ短調、繰り返しの後に変ロ長調、すぐにニ短調に戻るという転調の流れも優れたテクニックです。

続く第2主題は第4楽章を思わせるようなメロディーも流れてきます。
こんなところが使いまわしのプロであるベートーベンならではのテクニックではないでしょうか。
この曲をより印象付けるための使いまわしではないかと筆者は思います。

最後は少々不気味にも感じる半音進行のあとで、冒頭部分が繰り返されてクライマックスに近づいていくでしょう。
筆者はこの部分を聴くと「やはりこうなるんだ」というような説得感を感じてしまいます。

第9番を作曲していた頃、ベートーベンは眼の痛みに悩まされていたと言います。
体調が不完全だったことは間違いないので、この第1楽章の転調の繰り返しは健康への不安ではないでしょうか。
そして、この強さは一つの仕事を成し遂げたいという意思の現われのようにも感じます。

ティンパニが活躍する第2楽章

  • Molto vivace ニ短調 4分の3拍子 - Presto ニ長調 2分の2拍子 - Molto vivace - Presto

序奏は第1楽章のようにだんだんとさまざまな楽器に広がっていくような感じです。
ここで注目したいのはティンパニがしばしば出るところ。
このティンパニは展開部や再現部でも主旋律並みに活躍します。
そのため、2楽章はよく「ティンパニ協奏曲」と呼ばれることがあるそうです。
再現部では、ティンパニはティンパニの連打が重要な役割を果たし、曲に新たな彩りを添えます。
演奏会でもティンパニの連打は奏者の腕の見せどころなので、ぜひとも注目したいものです。

最後は前半部分を繰り返し、突然の長めの休符(1小節分)があり、激しい感じで終わります。
何かに驚いたかのような不思議な印象を残す終わり方です。
この時期、借金返済に苦しんでいたベートーベン。
突然の休符、思い直したかのような終止は、人生何があるかわからないが、何とか頑張ろうとする胸の内を表しているかのようです。

静かな祈りのような第3楽章

  • Adagio molto e cantabile 変ロ長調 4分の4拍子 ・Andante moderato ニ長調 4分の3拍子

Tempo I 変ロ長調 4分の4拍子 - Andante moderato ト長調 4分の3拍子 -
Tempo I 変ホ長調 4分の4拍子 - Stesso tempo 変ロ長調 8分の12拍子
第3楽章は2つの主題がある変奏曲とされていますが、主題が繰り返されるロンド形式、または展開部のないソナタ形式とする説もあります。

静かな祈りのように始まる第3楽章です。
木管から始まり、バイオリンに静かなメロディーが受け継がれていきます。
カンタービレ(歌うようにという意味)の第1主題に続き、動きのある第2主題が流れて変奏曲が展開します。

1楽章、2楽章と激しい旋律が続いたので、ここで小休憩のような感じです。
しかし、トランペットがファンファーレのような歓声をあげ、再び何かが起こるような兆しを見せます。
筆者はここにものすごいドラマ性を感じずにはいられません。
予想に反して、また優しい雰囲気の柔らかなメロディーが曲全体を包み、聴く人を安心させます。
そして、しばし緊張感を漂わせながら、安らぎの中で終わります。

この時期、ベートーベンは借金や体調不良などの苦しみはありましたが、数々の曲を作ったり、天才少年と称されたリストの音楽会に招待されたりと充実していた面もありました。
また、地位や名声も高まっていた頃だったので、どこに行っても、もてはやされたと思います。
数々の音楽家からは尊敬の目で見られ、可愛がっていた甥のカールはウィーン大学に入学するなど、喜ばしいことも多かったのでしょう。
そんな生活の充実が現われているような第3楽章です。

また、第3楽章の美しさは悪に染まらぬ美しい自然をイメージしているのではないかとも言われています。

「歓喜の歌」の第4楽章

最終楽章になる第4楽章は、さまざまな場面展開がなされていますので、場面ごとに解説します。

まずは管弦楽から始まります。

  • Presto / Recitativo ニ短調 4分の3拍子

インパクトの強い管楽器の不協和音で曲が始まります。
この響きをワーグナーは驚愕の響きと言っていたそうです。
聴いている人は「何が始まるかワクワクする」というより何か不安な気持ちになるのではないでしょうか。
しかし、すぐさま低弦のチェロとコントラバスがレチタティーヴォ(話すような歌いかた)で応じるので、何となく安心します。

このレチタティーヴォにベートーベンは「今日はめでたい日だ。」というメモがあったようです。

  • Allegro ma non troppo ニ短調 4分の2拍子

管弦楽が第1楽章冒頭を演奏し、チェロとコントラバスが応答します。

  • Vivace ニ短調 4分の3拍子

木管が第2楽章の主題を演奏しますが、チェロとコントラバスによって中断されてしまいます。
ここにベートーベン自身の否定的なメモがあったそうです。

  • Adagio cantabile 変ロ長調 4分の4拍子

木管による第3楽章が始まりますが、やはりこれもチェロとコントラバスによって中断。
ここにも否定のメモがあったとか。

  • Allegro assai ニ長調 4分の4拍子

管楽器によって新しい動機が演奏され、他の楽器も応答し、活き活きとした調子で曲が展開されていきます。

そして、チェロやコントラバスによる第1主題として「歓喜の歌」のメロディーが奏でられます。
さらにヴィオラ、ファゴット、コントラバスに受け継がれ、第1バイオリンに引き継がれて豊かなハーモニーに。
最後に管楽器も加わり、輝かしいメロディーが奏でられます。
ここにベートーベンの肯定的なメモがあったと言います。
「これだ」と書いてあったとか。

  • Presto / Recitativo ニ短調 4分の3拍子

"O Freunde"のバリトン独唱が始まります。
"O Freunde, nicht diese Töne!"(「おお友よ、この音ではない」という意味)
ここからやっと声楽が絡んできて、大合唱へと導かれるのです。

  • Allegro assai ニ長調 4分の4拍子

"Freude, schöner Götterfunken"
Freude!(歓喜よ)の掛け声をバリトンのソロが歌い、男声合唱が掛け合います。
ここで、仲間が増えてくるような感じです。
ベートーベンは仲間のいる喜びを表したのではないでしょうか。

"Freude, schöner Götterfunken"「歓喜」の歌が始まり、旋律後半部を合唱が繰り返します。
やがて、ソロが4人になり、旋律の後半部を合唱が歌うという形で曲が進んでいくのです。

決めセリフになるGott!(神を意味する)の歌い方は指揮者によって異なるので、演奏会での見どころになるでしょう。

  • Alla marcia Allegro assai vivace 変ロ長調 8分の6拍子

"Froh, wie seine Sonnen"
ここはマーチです。
打楽器群が小さな音で出てきて、次第に大きい音になっていきます。
そして、管楽器による「歓喜」の主題の変奏。
それに続き、テノールのソロが「歓喜」の主題の変奏で"Froh, wie seine Sonnen"「神の計画」を歌います。

さらに男声三部合唱、続いて管弦楽が入ってきて曲が盛り上がりを見せます。
ここでは、シンバルやトライアングルといったトルコ起源の楽器が使われるので、「トルコマーチ」と呼ばれることもありますが、本来のトルコ音楽とは異なる形です。

男声合唱の響きの中で、管弦楽による力強く長い間奏が演奏され、全員による合唱が始まります。
ここが「第九の合唱」として最も有名な部分です。

  • Andante maestoso ト長調 2分の3拍子

"Seid umschlungen, Millionen!"
ここで初めてトロンボーンが出てきます。
そして、トロンボーンのメロディーにのせて「抱擁」の詩による柔らかいメロディーが合唱されます。
この部分は、まるで中世の宗教音楽のような感じで、天空の音楽を表しています。

筆者が合唱団で参加した時、神に届くような柔らかな声で歌うようにと指示されました。
そんな歌い方が難しく、指揮者に注意されて、何度もやり直したという思い出があります。

  • Adagio ma non troppo, ma divoto 変ロ長調 2分の3拍子

"Ihr, stürzt nieder"
ここは「創造主の予感」が歌われる部分です。

  • Allegro energico, sempre ben marcato ニ長調 4分の6拍子

"Freude, schöner Götterfunken" / "Seid umschlungen, Millionen!"
「歓喜の歌」のメロディーに乗せて「歓喜」と「抱擁」が追いかけっこのように展開されていく部分です。

  • Allegro ma non tanto ニ長調 2分の2拍子

"Freude, Tochter aus Elysium!"
ソロの4人が、「歓喜」の歌詞を追いかけっこのように歌い、合唱に引き継がれます。
そこに4人のソロが入り、ソプラノ→アルト・テノール→バリトンと順番に歌います
これが最後のソロ部分です。

  • Prestissimo ニ長調 2分の2拍子

"Seid umschlungen, Millionen!"
第4楽章のクライマックスです。
テンポも最高潮に速く最もテンポが速く、Prestissimo(最高に速いテンポ)です。
冒頭に出た"Freude, schöner Götterfunken"が感極まったかのように歌いあげられます。
そして、再びPrestissimo(指揮者によってはPresto)で管弦楽の後奏があり、激しい感じで長い交響曲が幕を閉じるのです。
合唱団で歌った時にもっとも感動した場所です。
クライマックスは、ベートーベンが世界中で仲間になろうというメッセージを託した部分とも言われています。

初演の時、すでに耳が聞こえなかったベートーベンは最後の聴衆による拍手や大歓声が聞こえず失望したというエピソードがあります。
しかし、多くの観客の様子を見て、成功を実感したようです。
大曲の成功でベートーベンは安堵したのではないでしょうか。

この第九がベートーベンにとっての最後の大曲になりました。

ナポレオンが亡くなった後の世界情勢

第9番の構想を練り始めていたと思われる1821年、ベートーベンが崇拝していたナポレオンが亡くなりました。
これで、何か一つの時代が終わったとベートーベンは感じたのかもしれません。
そんな気持ちが新しい形の合唱付き交響曲を作るエネルギーになったのではないでしょうか。

ナポレオン没後、世界では紛争が起こったり、新しい国(ブラジル帝国)が成立したりなど、さまざまな出来事が起こっていました。
そんな中で作られた第9番交響曲には、世界中が兄弟という意味もあります。
第9番は、戦争でいがみ合う世界への警告だったのかもしれません。
ベートーベンは、平和への願いを曲に込めたのではないでしょうか。

交響曲の中で名盤とされてる曲は?

これまでに説明したベートーベンの9つの交響曲の中で名盤とされている曲を紹介しましょう。

ウィーンフィルのベートーヴェン交響曲全集では第5番・第6番

ウィーン・フィルのアンドリス・ネルソンス指揮の第5番・第6番が名盤とされています。
その理由について説明しましょう。

若いながらも実力派の指揮者ネルソンス

指揮は1978年生まれの若い指揮者ネルソンスですが、その経歴は素晴らしいものです。

  • 2014年からボストン交響楽団の音楽監督
  • ショスタコーヴィチの交響曲の録音で3回米国グラミー賞
  • 2017年からライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のカペルマイスター
  • ブルックナーの交響曲全集に取り組む
  • 2020年:ウィーンフィルのニューイヤーコンサートを指揮

ここで紹介するアンドリス・ネルソンスとウィーンフィルの交響曲全集は、2017年から19年にかけてライヴ録音が行われました。
これだけ忙しい指揮者ですが、時間をかけて丁寧に録音されています。

謙虚でシャイな性格のネルソンスですが、オーケストラとの対話、モチベーションの高め方がうまく、団員一人ひとりの音楽性を引き出すことに成功しています。

ウィーンフィルの響きを感じる5番・6番

9曲の中でもっともウィーンフィルの豊かな響きを感じるのが5番「運命」・6番「田園」とされています

  • 5番「運命」

重さはなく、躍動感にあふれた演奏です。
指揮者によるデュナーミクの付け方が巧みなのでしょう。

  • 6番「田園」

ウィーンフィルらしい豊かで美しい音色が特徴的。
まるで絵画のように田園の風景が見えてくるようです。

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ベートーベンに影響を受けた後世の作曲家

ベートーベンの交響曲に影響を受けた後世の作曲家や作品を紹介していきます。

  • シューベルト
  • リスト
  • シューマン
  • ワーグナー
  • ブラームス
  • マーラー

隣に埋葬してほしいと懇願したシューベルト

自身が亡くなったら、敬愛するベートーベンの隣に埋葬してほしいと頼んだのが歌曲王とされるシューベルトです。

影響された曲として挙げられるのは「2台ピアノのための序曲 D675」です。
シューベルトの友人ヨーゼフ・ヒュッテンブレンナーによると、シューベルトと一緒にベートーヴェンの「エグモント序曲」を連弾で弾いていたときのことです。
シューベルトは、いきなり「エグモント序曲」と同じ短調の曲をひらめいたようでした。

そのまま作曲開始になり、序曲「2台ピアノのための序曲 D675」が作られたのです。
シューベルトは作曲に没頭するあまり、食事を取り損ねたと言います。

ベートーベンを訪ねた子供時代のリスト

リストは練習曲で有名なツェルニーの弟子でした。
そして、ツェルニーはベートーベンの弟子
つまり、リストはベートーベンの孫弟子になります。

そんなリストは11歳の時に師匠であるツェルニーに連れられて、ベートーベンに会いに行きました。
ベートーベンはリストの天才少年ぶりに感激し、何度も頭を撫でたと言います。

後にリストはベートーベンの交響曲をピアノ用に編曲しています
原曲の持ち味を損なうことない見事な編曲と評判です。
ベートーベンも喜んでいるのではないでしょうか。

ベートーベンの研究を続けたシューマン

ベートーベンを敬愛し、その作品を学び研究したのがシューマンです。
そんな日々の中、巨匠の主題に基づく練習曲を作曲しました。

1831〜1832年に「ベートーべンの主題による自由な変奏形式の練習曲」(ドイツ語タイトル)を作曲しました。
交響曲第7番、第2楽章 アレグレット、イ短調の主題に基づく11の練習曲です。
ただし、第9曲と最終曲は未完のままです。

また、1833年には9曲でできている第2稿を作曲しました。
タイトルは「ベートーヴェンの主題に基づく練習曲」です。
この曲は妻となるクララ・ヴィーク(1819-1896)に献呈されています。

第九に影響されたワーグナー

ベートーベンの交響曲第9番に感動した時、ワーグナーは17歳でした。
この曲のスコアを研究したワーグナーは、ピアノ用の編曲譜を作り、楽譜出版社「ショット」に出版を打診しました。
この時は断られましたが、ワーグナーが作曲家として成功したのちには、彼が作曲した作品の出版を引き受けます。

そのようなワーグナーがベートーベンの交響曲を意識して取り組んだのが「交響曲ハ長調」です。
しかし、ベートーベンの交響曲7番に余りにもよく似ているとされています。

ベートーベンの後継者と言われたブラームス

師匠のシューマンによって才能を見出されたブラームスは「ベートーベンの後継者」とか「第二のベートーベン」と言われました。
そのため、ブラームス自身もベートーベンを強く意識するようになり、「交響曲第1番」の作曲に20年の歳月を費やしたと言われています。

そのような交響曲の作曲中にピアノ協奏曲第1番も生み出しました。
どうも、ブラームスはベートーベンを意識しすぎるため、交響曲の作曲というと、荷の重い作業になっていたようです。

合唱付きの交響曲第2番「復活」を作曲したマーラー

ベートーベン作曲の第9に近い曲として、挙げられるのはマーラー作曲の交響曲第2番「復活」です
ベートーベンの第九を意識してつくったのは間違いないでしょう。

共通点は、合唱と管弦楽のパワー全開でクライマックスになるところ、生きる意味を説いているところです。
そして、第九同様に何かの節目に演奏されることが多いのは、演奏者も観客も一つになれるところではないでしょうか。  

偉大なるベートーベンの交響曲に耳を傾けてみよう

ベートーベンの交響曲というと、まず思い浮かぶのは年末に演奏されることが多い第九でしょうか。
または「ジャジャジャジャーン」で有名な第5番「運命」、学校の鑑賞の授業などで取り上げられる第6番「田園」、最近では「のだめカンタービレ」のメインテーマとなった7番という方もいらっしゃるでしょう。

しかし、ベートーベンの交響曲は名のないものでも、心に残る名曲ばかりです
第1番、第2番のようにそれほど有名ではない曲にも耳を傾けてみてください。
ほとばしるほどのベートーベンの情熱が、あなたの心を魅了すること間違いなしです。

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