ピアノ歴20年以上のWEBライターです。コンクールや受験、さらにピアノ指導経験を活かした記事作成を行っています。
目次
ドビュッシーの月の光は、映画音楽やテレビCMなどでも使われる有名なクラシックのピアノ曲です。
特に、冒頭の幻想的なフレーズは、誰もが一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
多くのピアニストが好んで演奏するドビュッシーの月の光ですが、作曲された時代背景や経緯などはあまり知られていません。
そこで今回は、ピアノの名曲「月の光」の楽曲構成や練習のポイント、さらにドビュッシーがどのような人だったのかも合わせてご紹介します。
また、名演奏家が奏でる月の光もご紹介しているので、最後までご覧いただけると嬉しいです。
月の光が作曲された歴史的背景
月の光はドビュッシーが28歳の時に作曲した、全4曲からなる「ベルガマスク組曲」の第3曲です。
最も有名な月の光は、単独で演奏されるケースが多いですね。
月の光が作曲されたきっかけ
ピアニストを断念し作曲家を志したドビュッシーは、22歳の時に「ローマ大賞」を受賞しました。
ローマ大賞とは作曲家の登竜門と言える由緒ある賞で、政府から援助を受けイタリアに2年間留学しています。
20代後半になると西洋音楽の形式に違和感を覚えるようになり、独自の世界観を追及していきます。
当時、形式にとらわれない自由な作品は受け入れられなかったため、ドビュッシー自身も葛藤していたようです。
転機となったのは、1889年に開催された「パリ万国博覧会」。
ジャワのガムラン音楽に触れた彼は、西洋音楽の殻を破り、「美」を追及した独創的な手法を貫く決意をしました。
(ガムラン音楽は、インドネシアを中心とした民族音楽の総称)
そして、詩人ヴェルレーヌの作品からインスピレーションを得たドビュッシーは、ピアノ曲「月の光」を作曲したのです。
ちなみに「ベルガマスク組曲」は、イタリア・ベルガモ地方の喜劇をモチーフにした作品で、同じくヴェルレーヌの詩集に基づいています。
さらに、この頃出会ったクロード・モネやルノアールといった芸術家からも多くの刺激を受けて、月の光が誕生したと伝えられています。
月の光の世界観とは?
ドビュッシーの月の光は、ヴェルレーヌの詩集「艶やかな宴」の中にある「月の光」をモチーフにして作られました。
ヴェルレーヌの詩「月の光」には、美しさだけではなく、悲しみや虚しさといった相反する表現が入り混じっています。
ドビュッシーが惹かれたのは、おそらくこの曖昧な世界観だったのかもしれませんね。
なぜなら、月の光の抽象的でぼんやりした美しさが、ヴェルレーヌの詩と一体化しているように思えるからです。
とはいえ曲の解釈はさまざまなので、正解はありません。
ベルガマスク組曲をご紹介!
ベルガマスク組曲は、4つの小品で構成されている作品です。
ここでは、月の光以外の楽曲もご紹介しますね。
- 前奏曲
- メヌエット
- 月の光
- パスピエ
前奏曲
第1曲らしい壮大なフレーズで始まる前奏曲。
重厚な和音の響きと16分音符のキラキラしたパッセージの対比が魅力的な楽曲です。
さらに、中間部の切なくノスタルジックな雰囲気から光を見出すようなメロディは、ドビュッシーならではの手法と言えますね。
メヌエット
軽快さとなめらかなフレーズが混在する楽曲です。
メロディと和声を弾き分けたり細かいパッセージを美しく弾くなど、テクニカルな一面もあります。
パスピエ
パスピエとは、ヨーロッパの古い舞曲形式のことです。
ドビュッシーは、このパスピエを4分の4拍子の行進曲風に作曲しました。
従来の拍子という理論的な作風ではなく、舞曲が持つ雰囲気やニュアンスを重視している点が、いかにもドビュッシーらしい楽曲と言えます。
ドビュッシーってどんな人だったの?
月の光を作曲したフランス出身のクロード・ドビュッシーは、印象派と呼ばれる近現代音楽を開拓した作曲家の一人であり、独特の手法や和声で作られた楽曲が多数残されています。
そのドビュッシーの人柄について、幼少期とパリ音楽院入学後に分けてご紹介していきますね。
幼少期
ドビュッシーは1862年8月22日フランスのサンジェルマンアンレーで、陶器店を営む父親と裁縫師だった母親の長男として誕生しました。
その後、陶器店が経営難に陥ったため母方の実家クリシーに移住。
1870年にドビュッシーの伯母の知人であったヴァイオリニストからピアノを習い始め、翌年には詩人ヴェルレーヌの義母から音楽の基礎を学んだと伝えられています。
ドビュッシーは自身の幼少期について自ら語らなかったため、ピアノの手ほどきを受けたこと以外は明かされていません。
ただ、幼少期にピアノの才能が開花したのは間違いないでしょう。
パリ音楽院入学〜晩年
出典元:ウィキペディア
1872年、10歳になったドビュッシーは、ピアニストを目指してフランスの名門「パリ音楽院」に入学。
学内のコンクールでは、ロマン派の巨匠であるショパンやシューマンの楽曲を演奏し、高く評価されました。
しかし、その後のピアノの成績が思わしくなくピアニストを断念したドビュッシーは、作曲家に転身し歌曲や交響曲、ピアノ曲など多くの作品に着手しました。
27歳の時、パリ万国博覧会で東洋音楽に触れたドビュッシーは、「牧神の午後への前奏曲」や「ベルガマスク組曲」などを作曲し「月の光」が誕生したのです。
そして、晩年のドビュッシーは病に冒されながらも作曲を続け、「ピアノのための12の練習曲」や「ヴァイオリンソナタ」を残しました。
【番外編】ドビュッシーは問題児だった!?
音楽の才能に恵まれ、10歳にしてパリ音楽院に合格したドビュッシー。
しかし、頑固で気難しい一面があり、友人関係に悩むことも多かったようです。
そのうえ、当時の西洋音楽や伝統音楽についても異論を持ち、音楽院の教師たちも困らせていました。
このように、ドビュッシーはこだわりが強く、自分の信念を貫く性格だったからこそ、西洋音楽の枠を越えた独創的な作品が多いのでしょう。
ちなみに、ドビュッシーは恋愛においても上手くいかず、既婚女性を愛してしまったり、離婚を繰り返していたと伝えられています。
オススメ記事
【難易度付き】ドビュッシーの名曲11選|1度は聞いてほしい最高傑作も◎
ドビュッシーの生涯、名曲一覧、練習のポイント、ドビュッシーにまつわるエピソードをご紹介しています。この記事を読んでドビュッシーをもっと知り、あなたの好みに合う作品を見つけて楽しみましょう。
CMでもよく使われる月の光の曲の特徴!
ここでは、月の光の楽曲構成や特徴をご紹介していきますね。
楽曲構成は?
月の光は、変ニ長調8分の9拍子の3部形式で構成されています。
楽曲の速度指示は、Andante tres expressif(アンダンテ・トレ・エクスプレシィフ。
訳すと「ゆっくりと大変表情豊かに」という意味になります。
一般的にAndanteは「歩くような速さ」と解釈されますが、月の光ではゆっくりとしたテンポ感が好ましいです。
冒頭は和音進行が主体となって、27小節以降の中間部からは、流れるような優美な旋律が歌われます。
引用元:ベルガマスク組曲 中井正子校訂(株式会社ハンナ)
中間部に使われるのは、教会旋法の一種である「ミクソリディア旋法」という音階。
簡単に説明すると、ハ長調「ドレミファソラシド」の「シ」を半音下げた音階のことで、教会音楽のような神聖で神々しい響きが特徴です。
59小節からは冒頭の第1主題が戻り、クライマックスに向けて静かなハーモニーを奏でます。
曲の特徴
印象派と呼ばれるドビュッシーの作品は、際立ったメロディよりも響きや雰囲気が全面に現れています。
月の光は、まさに印象派音楽の象徴であり、ドビュッシーの魅力が詰まった楽曲と言えますね。
その月の光は、当初「感傷的な散歩道」というタイトルがつけられました。
このことから、ドビュッシーは単に月明かりの描写ではなく、混沌とした世界観を表現したかったのだと考えられます。
全体的にピアニッシモのような弱音で弾く月の光は、繊細で透明感のある楽曲ですが、時に緊張感を与えるフレーズも魅力的です。
静かな世界観の中で揺れ動く感情をピアノで表現するのは、技術以上の難しさと言えるでしょう。
これを抑えておけば間違いない!練習のコツ◎
ここからは、ピアノで月の光を練習する時に抑えておきたいポイントや練習方法をご紹介しますね。
ちなみに個人的な意見ですが、月の光はテクニックよりも音楽的な表現がとても難しい曲と言えます。
そのため、自分でイメージした情景をピアノの音で表現するための課題としても最適です。
テクニック編
まず、テクニック的な練習方法からお伝えします。
最難関な部分といえば、27小節以降に出てくる16分音符の流動的な旋律です。
ポイントは2つ。
- 多声(メロディ・伴奏)を弾き分ける
- 左手の広い音域のアルペジオ
多声(メロディ・伴奏)を弾き分ける
27小節目を分解すると、ベースとなる付点四分音符・内声の16分音符・高音部のメロディラインの3つに分けられます。
3つを同時に弾き分けるために、まずは部分的に練習してみましょう。
引用元:ベルガマスク組曲 中井正子校訂(株式会社ハンナ)
例えば、左手でベースの付点四分音符、右手でメロディラインを弾いてみます。
言い換えると、真ん中の16分音符は弾かないということです。
この時、メロディを支えるベースの響きをよく感じてみてください。
このようにパーツを分解して練習すると、音量のバランスを把握できます。
さらに、ペダルのタイミングをつかむため、指だけで繋ぐ練習も効果的です。
左手の広い音域のアルペジオ
41小節から46小節にかけて出てくる左手のアルペジオは、ペダルを上手に使ってなめらかに弾くと良いでしょう。
引用元:ベルガマスク組曲 中井正子校訂(株式会社ハンナ)
例えば、41小節の左手に注目すると、ベースに付点二分音符があります。
しかし、小指を押さえたまま広音域のアルペジオを弾くことは不可能です。
そこで、ペダルを使って豊かな響きを残す弾き方を練習してみましょう。
1拍目の左手「ファ#」をしっかり打鍵して、ペダルを後踏みします。
豊かな音量で響いているか自分の耳で聞きながら、16分音符のアルペジオを弾いてみてください。
広い音域のアルペジオは、手首の高さを固定してなめらかな横移動を意識すると上手く弾けますよ。
音楽的表現編
月の光は、1小節目で決まってしまうと言っても過言ではない気がします。
大げさですが、冒頭の「ファ・ラ」に全神経を集中させて曲の世界観に入り込むと魅力的な演奏に繋がると思います。
引用元:ベルガマスク組曲 中井正子校訂(株式会社ハンナ)
楽譜をみると、1拍目は八分休符になっていますね。
この休符をしっかり感じているかで、演奏の印象が変わってきます。
例えば、左手から右手に繋げる「ファ・ラ」は、空に浮かぶ月に向かって手を伸ばすイメージ。
届かないと分かっていても、月がつかめそうな感覚で弾いてみましょう。
(少し分かりづらいので、自分なりのイメージでも大丈夫ですよ)
続いて、15小節の「Tempo rubato(テンポ・ルバート)」に注目。
この音楽用語には自由な速さでという意味があり、ショパンの作品でも多用されています。
引用元:ベルガマスク組曲 中井正子校訂(株式会社ハンナ)
ここからは重厚な和音進行なので、適度にテンポを揺らすことで音楽的な表現になり、幻想的な響きが際立ちます。
通常はピアノの練習をする時にメトロノームを使いますが、月の光に関しては確認程度で良いと思います。
楽譜の選び方
月の光の楽譜選びのポイントは、的確なペダルの指示と指使いです。
ピアノ経験者の私がおすすめしたい月の光の楽譜は、以下の2冊。
- 中井正子校訂「ベルガマスク組曲」(株式会社ハンナ)
- 安川加寿子校訂「ドビュッシー作品集」(音楽之友社)
引用元:
(左)安川加寿子版ドビュッシーピアノ曲集(音楽之友社)
(右)中井正子版ベルガマスク組曲(株式会社ハンナ)
いずれも、ピアノ教育に尽力している先生が監修した楽譜なので、ペダルや指使いが的確で弾きやすいです。
さらに、フランス語の音楽用語にも日本語訳が記載されているので、使いやすさにも定評があります。
ヘンレ版やデュラン版といった原典版も良いのですが、輸入楽譜の扱いのため、お取り寄せになると手元に届くまで2〜3週間かかる可能性があります。
筆者おすすめの名演奏家をご紹介!
ここからは、私が個人的におすすめする月の光の名演奏をご紹介します。
ピアニストの個性溢れる月の光を、じっくり聴き比べてみてください。
反田恭平
第18回ショパン国際ピアノコンクールで第2位入賞のピアニスト。
モスクワ音楽院やショパン国立音楽大学で研鑽を積み、今や世界的にも有名なピアニストの一人です。
清塚信也
テレビ番組の出演も多く、ピアニストや作曲家としても活躍しています。
独創的なアレンジ力で、クラシック音楽だけではなく多ジャンルの音楽で魅了するピアニスト。
野上真梨子
国内外のコンクールで、数々の受賞歴を持つピアニストです。
さらに、オーケストラとの共演やリサイタルなどの演奏活動も勢力的に行っています。
ラン・ラン
中国出身の世界的ピアニストの一人。
演奏活動のみならずピアノ教育にも尽力しています。2014年にはグラミー賞を受賞しました。
ミシェル・ベロフ
フランス出身のピアニストで、近代フランス音楽の演奏に定評があります。
1989年からは、母校のパリ音楽院で後進の指導にあたっています。
まとめ〜ピアノ曲「月の光」の魅力を知ろう〜
今回は、ドビュッシーの代表的なピアノ曲「月の光」について詳しく解説してきました。
ドビュッシーの人柄を知ると、彼の独創的な作品が生み出されたきっかけが理解できて、より月の光の魅力に気づくことができます。
ピアノで弾く時は、テクニックよりも神秘的で幻想的な音色を追及してみてください。
きっと素敵な演奏になりますよ。
オススメ記事
【難易度付き】ドビュッシーの名曲11選|1度は聞いてほしい最高傑作も◎
ドビュッシーの生涯、名曲一覧、練習のポイント、ドビュッシーにまつわるエピソードをご紹介しています。この記事を読んでドビュッシーをもっと知り、あなたの好みに合う作品を見つけて楽しみましょう。
オススメ記事
【中級者向け】ピアノの先生がクラシックのおすすめを30選ご紹介|楽譜付き◎
ピアノのクラシックでレパートリーを広げよう!筆者が30曲厳選し、初心者から上級者まで役立つ楽譜情報をお届けします。ピアノ楽譜クラシックの選び方も解説。