音楽大学を卒業しました。現在は自宅でピアノ教室を開いており、4歳から大人まで幅広い年齢層の生徒さんを教えております。 また、ピアノと合わせて文章を書くのも好きです。ピアノの魅力を多くの皆様にお伝えできる記事をお届けしたいと考えております。
目次
ピアノを弾くと、脳に良い影響を与えることがわかってきました。
とはいえ、多くの皆様は、脳のためというよりは、ピアノを好きで弾いていると思います。
しかし、ピアノを弾くことで脳にポジティブな効果をもたらすのであれば、うれしいことです。
この記事では、筆者の経験や脳科学者の澤田先生の見解をもとにピアノがもたらすポジティブな効果を解説します。
ピアノの練習で得られる効果10点
まずは、ピアノの練習で得られる効果を以下の10点からお伝えします。
【脳に及ぼす効果】
- 学習効果
- 記憶力・集中力の向上
- 自己肯定感と自信
- 精神面安定とリラックス効果
- 継続性
- 感受性
- 人への思いやり
- 音楽全般が好きになる
- 個性を認められるようになる
一般的にいわれる効果のみでなく、筆者が実体験で感じた効果も含んでいます。
皆様のピアノ学習の参考にしてください。
ピアノが脳に及ぼす効果
ピアノは脳に良い影響を及ぼすといわれます。
その効果の検証として、以下の2点を挙げます。
- 脳の構造と音楽の関係性
- ピアノが刺激する脳の部位
ピアノと脳の良好な関係を知ると、今後のピアノとの向き合い方も変わってくるのではないでしょうか。
脳の構造と音楽の関係性
脳の構造と音楽の関係性について、研究の成果のポイントを挙げます。
- 音楽は脳に伝達される幸福感や、やる気をもたらすドーパミンを増やす働きがある
- 音楽家の脳は脳梁(のうりょう)が太い
神経伝達物質の一種になるドーパミンは、脳内報酬系の活発化をもたらします。
脳内報酬系とは、人に幸福感を与える神経ネットワークです。
つまり、音楽を聴いたり、演奏したりすることで、人は幸せな気持ちになれるのです。
音楽家が太いと言われる脳梁(のうりょう)は、右脳と左脳の情報伝達を受け持つ部位です。
音楽家は、美しい音楽を奏でるために、右脳でメロディーを歌い、左脳でテンポ感や拍子など、譜面に書かれているメカニック的なことを反芻(はんすう)しています。
音楽家の脳は、こうした右脳や左脳がさっと働くようにできているのです。
ピアノが刺激する脳の部位
次は、ピアノが刺激する脳の部位についてです。
楽譜を見てピアノを弾いている時に、脳のどの部位が刺激されているか説明します。
① 楽譜を見る動作:後頭葉の視覚野で処理 → 楽譜の情報は側頭頭頂部・前頭前野にあるワーキングメモリーで処理される
【解説】
脳の後頭葉には視覚を認知する視覚野があります。
弾き手が目にする楽譜の情報は、視神経を介して、脳の後頭葉の視覚野に伝わり処理されます。そして、脳の側頭頭頂部の前頭前野にある※ワーキングメモリーでさらに細かく処理されるのです。
たとえば、何調の曲か、どんなテンポかどんな雰囲気か、前にも弾いたパターンか、自分には弾けそうかなど、過去や現在を含めた情報がワーキングメモリーで整理されます。
※ワーキングメモリー:作業するために必要な情報を記憶したり処理したりする能力
② 弾く前の準備動作:前頭前野による実行機能が働く
【解説】
ピアノを弾こうとする時には、「これから弾くぞ。」とか「さあ行くぞ。」という気持ちになるものです。その時に働くのが思考や判断などを司る脳の前頭前野です。
つまり、前頭前野により、ピアノを弾く気持ちを奮い立たせ、ピアノを弾こうとする実行機能が働くように導きます。
③ 弾く時に認知する鍵盤の場所や距離感:頭頂葉背側経路で空間認知を実行する
【解説】
ピアノを弾く時、弾き手は以下を確認します。
- ピアノと椅子の距離が適切かどうか
- 鍵盤の位置(最初に弾く音の位置など)
こうした位置確認は空間認知と言い、頭頂葉背側経路にある部分を使います。
④ 弾く瞬間:前頭葉運動野が体のあらゆる部分に指令を出す
- 指先
- 肘
- 肩
- 体幹
- 足の筋肉
- 関節
その他にもさまざまな部分に脳からの指令が行き渡る
⑤ 演奏中の脳の動き
打鍵によって奏でられる音
↓
側頭葉の聴覚視野で情報として受け取られる
↓
ウェルニッケ野、ブローカー野により、音がド、レ、ミ…として認識される
↓
ミスタッチや自分の弾きたい演奏になっているか否かなどをフィードバックの働きで感じる
↓
視床、基底核、脳幹、脊髄等が関わり、運動調節をする
このように、ピアノを弾くとき脳はフル回転しています。
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ピアノ学習の年齢と脳の関係
ピアノ学習の年齢と脳の関係についても気になるところです。
ここでは、ピアノは小さいうちから取り組んだ方がいいのか、大人になってからではメリットがないのかなど、ピアノ学習を始める年齢と脳の関係について取り上げてみました。
若い頃からの学習が効果的である理由
一般的に、ピアノはより若い頃から始めた方が効果的であるといわれています。
しかし、年齢によって発達段階が異なるので、発達に合わせた学習が理想的です。
ここからは、年齢による脳の発達と音楽に関する認識を説明していきます。
▶ ▶ 0歳
生まれてすぐ発達するのは視覚と聴覚です。
視覚:生後4ヶ月には動きに敏感になり、動いているものを見つめるようになります。
聴覚:生後すぐに大きな音に反応し、6ヶ月くらいには音の違いを聞き分けます。
そして、9~12ヶ月には、音を聞き分けられるようになるでしょう。
したがって、この時期には良い音楽をたくさん聴かせてあげたいものです。
また、お母さんの優しい声による読み聞かせも良い耳を育てます。
▶ ▶ 2~3歳
この時期は、自分や他人を区別できるようになります。そして、子どもにとって大事な知的好奇心が育つ時期です。
この時期は鍵盤に触れるよりは、音楽を聴いたり、歌を歌ったりして楽しませることが大事です。
子どもによっては、音楽遊び中心のグループレッスンやリトミックなどが始められます。
ただし、子どもが興味を持つかどうかを前提にしましょう。
▶ ▶ 3~5歳
運動野が伸びる時期なので、ピアノを習い始めるには適切です。指先の細かな動きなどもできるようになります。
この時期に適切な音楽教育を受けると、将来的に基礎能力として身に付く可能性が考えられます。
ピアノ演奏において要となる左脳と右脳をつなぐ脳梁や、脳と手のネットワークになる錐体路(すいたいろ)が発達する時期です。
▶ ▶ 8歳~思春期
10歳までに言語野が著しく発達します。
音を聴いて処理する能力も言語野が関係するので、音をよく聴き分けられるようになります。
したがって、この時期に良い音による演奏を身に付けておくと後に役立つはずです。
そして、10歳から思春期にかけて、思考、判断力、コミュニケーション能力に携わる前頭葉が大きな発達を遂げます。
この能力は遺伝性が低く、置かれている環境や本人の努力によって変わってくるものです。
環境が大事な要因となることがわかるでしょう。
10歳を過ぎたら、子どもが自分の意思を伝えられるようなコミュニケーション重視のピアノレッスンが必要になってきます。
上記で説明しましたとおり、理想のピアノレッスン開始年齢は3~5歳ですが、コミュニケーションがきちんととれるようになる8歳以降に始めても遅いわけではありません。
お子様によっては、思考能力がきちんと育ってからの方が能力を発揮できる場合もあります。
大人の脳にもメリットがある
上記では、3~5歳の時期にピアノを始めると効果があるとしていますが、大人から始めるのもありです。
ピアノの練習は、大人の脳にも大きなメリットがあります。
大人と子どもの違いは、経験値です。
大人は子どもよりも、さまざまなことを経験しています。
大人の方が経験した人生の喜びや哀しみ、恋愛、人との別れ、家族への愛情など、すべて音楽そのものです。
その経験をピアノに活かしましょう。
また、ピアノを弾くことで脳がフル回転します。
つまり、かなり脳を使っているので、脳が鍛えられるのです。脳は鍛えれば鍛えるほどに力を発揮します。
しかし、大人からピアノを始めると、子どもほどにすんなりといきません。
それは仕方のないことだと思って割り切ってください。
まずは焦らず、のんびり構えるのが大事です。
いきなり両手で弾くのは難しいので、無理のない片手の曲から入りましょう。
頑張って練習していくうちに弾きたい曲が弾けるようになります。
いつか、あなたのすてきな音色が響くのを夢見ましょう。夢見ることも脳の活性化につながります。
記憶力・集中力の向上
ピアノの練習は、記憶力や集中力の向上に役立ちます。
したがって、余り関係ないように思えるのですが、入試などの試験の鍛錬にもなります。
たとえば、ピアノの発表会では、暗譜で弾くので、記憶力と集中力が決め手。
左右片手ずつでしっかり暗譜しておかないと、本番の緊張で忘れてしまうこともあります。
その時に働かせるのは、集中力です。
普段のレッスンや練習で培った集中力がいざという時に発揮できます。
暗譜を忘れそうになっても、集中力で乗り切れます。
このように、どんな緊張のさなかでも弾けるのは、記憶力と集中力の賜物なのです。
入試や試験でも同じです。
きちんと勉強しておけば、いざという時に覚えたことや学習したことを思い出し、問題をすらすら解けます。
その際にピアノの発表会を経験している子どもは強さを発揮します。
発表会の緊張感を知っているので、緊張する際にどうすればいいかを心得ているのです。
そんな心構えが、入試という人生の舞台においても能力を発揮できます。
ピアノを経験している子は、本番で自分の力を出し切れるでしょう。
自己肯定感と自信
ピアノを弾くことで、自己肯定感と自信を持てます。
たとえば、日々の練習で上手になっていくのを実感できる、先生や親、友人に褒められて自信を持つ、発表会やコンクール、の伴奏で力を発揮でき、自己肯定感を得るといったことです。
私事ですが、筆者は自信のない子どもでした。
父の転勤で引越が多かったためか、なかなか友達の輪に入れず、消極的で人前になると押し黙ってしまうようなタイプ。
当然、友達のいない小学校時代でした。
しかし、ピアノだけは親が続けさせてくれたので、中学生になると伴奏を弾いたり、歌の練習でメロディーを弾いて指導に回ったりと活躍できるようになったのです。
お陰で友達ができ、音大に入ることもできました。
筆者にとって、ピアノは自己肯定感と自信を持たせてくれる人生のパートナーになったのです。
今でもピアノを与えてくれた親に感謝しております。
精神面安定とリラックス効果
ピアノは、精神面安定とリラックス効果を得るケースもあります。
こちらについても、筆者の体験を書かせてください。
筆者の生徒さんには、障がいがあるお子様や大人の方がいます。
ある自閉症の生徒さんは、ピアノを弾くことで精神安定とリラックス効果を得ています。
一例として発表会での一場面をお話ししますね。
自閉症の人は、初めての場所、新しい場所、予期せぬ出来事が苦手です。
その生徒さんは地域にできた新しいホールでのピアノ発表会でかなり緊張していたと思います。
そんな状態だったため、駐車場から会場に入る入口で迷ってしまいました。
楽屋に着いた時はかなり興奮していて「もう出ない。」とまで言っていたのです。
しかし、しばらくして弾く順番になると、リラックスして楽しそうに弾いてくれました。
ご両親や親戚の方など、皆様嬉しそうに見守っていたのです。
舞台を終えてからも落ち着いて、他の生徒さんの演奏を聴いていました。
この事例からもわかるように、この生徒さんはピアノを弾くことで精神面安定とリラックス効果を得たのです。
極端な例ですが、どんな人にでも言えることです。
発表会でなくても、学校や職場で困ったことがあった時など、家でピアノを弾くと落ち着く場合も考えられます。
継続性
継続性が養えるのも大事なピアノの効果です。
継続することで、上達につながり、自信を持てます。
こちらも、筆者の生徒さんの例を取り上げてみましょう。
障がいのある生徒さんは、継続性のあるタイプが多いです。
ある20代半ばの生徒さんは、休まず、真面目にレッスンに来てくれます。
そんな彼は不器用なところもありますが、とにかく地道に一生懸命練習します。
教室に通って10年近くになり、エリーゼのために、ブルグミュラーの練習曲、バロック曲などを弾きこなせるようになりました。
生徒さんはピアノを弾くことに、大きな自信を持ってくれました。
ピアノは80歳になっても頑張ると言ってくれます。
そんな息子さんの様子を見て、レッスンに一緒に来てくださるお母様も嬉しそうです。
感受性が育つ
特に子どもに関していえますが、ピアノを弾くことで感受性が育ちます。
なぜならば、ピアノ曲のみでなくすべての音楽には、作曲した人の気持ちが込められているからです。
奏者はそんな作曲者の思いを感じつつ、自分なりの思いを込めて演奏します。
子どもなりに、ここは悲しい場面、ここは楽しいところなど考えて弾きます。
そうすると、曲が一つの物語のようになり、表情豊かに弾けるようになるのです。
同時に感受性が育ち、発想力が豊かになります。
人を思いやる心が育つ
感受性と似た効果ですが、ピアノを弾くことで人を思いやる心も育ちます。
ピアノ曲に限ったことではありませんが、愛情にあふれた曲が多く存在するからです。
たとえば、「エリ―ゼのために」はベートーヴェンが好きな女性を想って作曲したといわれています。
また、ドビュッシーの「子どもの領分」は娘への愛情にあふれた曲です。
そんな作曲者の想いを受け止めながら弾くことで、思いやりの心が育まれるでしょう。
音楽全般が好きになる
ピアノを弾くことで、音楽全般が好きになります。
たとえば、ピアノ曲を通してオーケストラの曲やポップスにも興味を持つことがあります。ピアノ曲には、クラシックのみでなくさまざまなジャンルがあるからです。
たとえば、ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」が例として挙げられます。ピアノ曲ですが、ラヴェルがオーケストレーションしています。
また、クラシックのみならず、ポップスもピアノで弾けるので、流行りの曲を弾く楽しみも経験できます。
このように、いろいろな曲をピアノで弾けると、音楽全般に目を向けるようになるでしょう。
個性を認められるようになる
ピアノ曲のみならず、音楽はどんな曲でもその曲にしかない個性があります。
逆に個性がなければ、つまらない音楽になってしまいます。
そんな個性豊かな曲に触れるうちに、自然と人の個性も認められるようになります。
仮に子どもであれば、クラスメイトなどの個性を良さとしてポジティブにとらえられるようになるでしょう。
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「ホンマでっか」の脳科学者の澤口先生の見解
TV「ホンマでっか」で脳科学者の澤口俊之先生がピアノの効果について言及されていました。
ここでは、澤口先生の見解を以下のポイントでまとめます。
- HQ(人間性知能)を高める
- 脳の構造を変える
脳科学者の見解を知る事で、ピアノ脳に与える効果をより深く理解できます。
HQ(人間性知能)を高める
ピアノを習うことで人間性知能と言われるHQを高められると、澤口先生は述べています。わかりやすく説明しましょう。
HQとは、夢や理想のために努力する未来的行動力や、人への思いやり・理性、コミュニケーション能力のことです。
人として理想的な生き方ではないでしょうか。
ピアノを習うことでHQを高められるのは、脳の構造による理由があります。
ピアノは両手の複雑な動きによって、楽譜を頭に入れながら演奏します。
さらに次の場面を考えながら弾くので、脳はフル回転です。
そして異なる動きで両手を平等に使うのは、ピアノならではの高度なテクニック。
ピアノを弾くことで知らないうちに脳の機能が高まっているのです。
HQが鍛えられれば、人は幸せになります。
行動力で頑張る結果、目標が達成でき、思いやりやコミュニケーション能力があれば、友情や恋が芽生えるでしょう。
脳の構造を変える
ピアノはHQの向上のみでなく脳の構造を変えます。
澤田先生によると、この効果はきちんと証明されているそうです。
たとえば、この記事でも書いた通り(「ピアノが脳に及ぼす効果」より)、ピアノのレッスンを続けると左脳、右脳のバランスが良くなり、脳梁が太くなります。
音楽家の脳梁が太いのもそのためです。
さらに小脳も大きくなるため、以下の機能がアップします。
- 運動機能
- 知的機能
- 感情的機能
- 記憶力(海馬の発達のため)
これらの機能が発達すれば、運動も勉強もまんべんなくできる感情豊かな人になるでしょう。
楽しく幸せな人生を送れるのではないでしょうか。
ピアノは人を幸せにする
ピアノを弾くことで脳の機能が高まり、幸せになる確率も高まることが分かりました。
この記事で説明したピアノの練習で得られる効果10点は、脳科学者である澤口先生のお話にも表れています。
ピアノを弾くことで脳はフル回転し、さまざまな効果をもたらします。
記憶力の向上など学力的な事の他、思いやりの心や豊かな感受性を生み、人間性知能HQを鍛えるのです。
このようにピアノを弾くことで、多くの幸せを得られます。そんな幸せをかみしめながら、日々ピアノに向き合いましょう。
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