• 練習・楽しみ方

ピアノの練習で「腱鞘炎」になった時の治療法◎なんで起こるの?

Written by
2024.03.29
山崎由芽
【執筆・監修】山崎由芽

3歳から12歳までピアノ教室に通っていました。その後は中学・高校でコンクールや行事で伴奏をしていました。現在は趣味で弾き語りや基礎練習を続けて、兄弟に教えています。 音楽の楽しさと壁の乗り越え方を、経験をもとに伝えていきます。

ピアノの練習をしていると「気が付いたら手首や指がかなり痛い」なんてことが、よくあります。
腱鞘炎の初期症状は筋肉痛ともよく似ているので、放置しても良いのか不安になりがちです。
実際に私も腱鞘炎になり、そこからガングリオンという出っ張りが現れてしまいました。
記事の流れに沿ってこの経験もお話しますね。

今回は腱鞘炎になる原因や症状、完治までの時間や、悪い練習方法と予防方法を解説します。

腱鞘炎とは?

腱鞘炎は手を酷使することで、指や手首の関節を動かす際に痛みを感じる病気です。
骨と筋肉を繋ぐ腱と、腱を包む腱鞘に摩擦が起こり、炎症して痛みが生じます。
ただ痛みを感じるだけや腫れてしまう、熱を持っているなど度合いによって症状も異なります。

腱鞘炎が起こる原因

腱鞘炎が起こる原因は、手を酷使することです。
具体的にはピアノやパソコン操作、スマホ、スポーツ、飲食店(ホール)、育児や家事、執筆(勉強)、力仕事、美容師など特定の筋肉ばかりを使う場合です。

私の場合は、何年も前から月1回、1〜2週間の頻度で強い痛みが出ています。
最も頻繁に起こったり強い痛みだった時期の仕事は、引越し会社や新聞会社です。
さらに趣味で筋トレとピアノをしていたので、手首からしたらフル稼働になります。

酷使する他に、女性ホルモンのバランスが崩れたり年齢による変化も関係しています。
特に妊娠中に多く見られがちです。
女性ホルモンの1つであるエストロゲンの低下は更年期あたりから増えるため、酷使していなくても60代からは注意が必要です。

腱鞘炎の具体的な症状

腱鞘炎の具体的な症状は、手首と指の付け根に鋭い痛みやしびれがあります。
外見では分からないが動かしにくい場合が多く、本人が意識をしていないと早期発見しづらいです。
悪化すると手首に大きなしこりができたり、腫れや熱を持ち始めます。

  • 初期段階
  • たまに手首の奥で、うっすらと痛みを感じる程度です。
    生活にはほとんど影響はなく、家事や力仕事も少しの我慢で行えます。

  • やや進行
  • より鋭い痛みを感じて、発生源をピンポイントで見つけることが可能です。
    この頃から人によっては家事が苦しくなり、生活の中で痛みに意識が行きがちです。

  • 重度
  • 仕事中も突然鋭い痛みが走り、物を落とすようになります。
    私は両手でもスマホの操作が困難で、返信をするのも嫌になっていました。

ちなみに、手首に症状が現れるのはドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)、指に症状が現れるのはばね指(弾発指)といいます。

筋肉痛と腱鞘炎の見分け方◎

筋肉痛は運動をした後、数日程度で使った筋肉に痛みが生じます。
放置していても5日以内に症状は治まり、その後も問題なく身体を動かせます。
腱鞘炎の初期段階と痛みの感覚が似ており、放置をするかの判断が難しいです。

判断に迷っている人は、腱鞘炎のセルフチェック方法を知っておきましょう。

  • 手首の腱鞘炎
  • 手首や親指の付け根に痛みがあるかをチェックしつつ、痛みを感じたら無理せずゆっくり戻しましょう。

    ①体の前に手を真っ直ぐのばし、親指を中に入れてグッと握りしめる。
    じゃんけんに出てくるグーの形です。

    ②親指を内側に倒して、小指側へ引っ張る。
    この時、他の指はできるだけ脱力した状態で行います。
    片手では分かりにくい場合は、反対の手で親指を引っ張っても良いです。

  • 指の腱鞘炎
  • ばね指は、曲げ伸ばしの時にカクカクしてしまい動かしにくいです。
    その感覚を3つの方法でチェックしていきましょう。

    ①指の曲げ伸ばしをゆっくり行い、途中で引っかかる感覚があるかを確認する。

    ②起床時に指がこわばる。
    どちらも曲げた後に戻しにくく、無理に動かそうとするとカクンという感覚があるか意識して行います。

    ③手のひらを上にして、指の付け根が腫れている。
    あるいは熱を持っている。

これらに当てはまらなければ筋肉痛の可能性があるので、数日様子を見てから再度チェックを行うと良いです。

完治までにどれくらい時間がかかる?

完治までにかかる時間は、かなり個人差があります。
というのも、その人の生活環境や職種、進行具合によって安静にできる度合いが異なるからです。
早期発見で仕事も手を酷使しない場合は、4〜6週間程度で治るといわれています。
手術をする人もおり、術後数か月~1年半ほどで痛みが引くという人もいます。

私は仕事を休めずに7年以上腱鞘炎と付き合っているので、痛みに慣れた方が早かったです。
腱鞘炎が悪化し、手首にガングリオンという症状も出ていますが、注射で水抜きをしても意味がありませんでした。
そのため、痛みの酷い日は湿布を貼りながら仕事をし、加えて毎日お風呂でストレッチを行っています。
完全にセルフ治療ですが、間違ったことをしなければ極端に悪化する心配はありません。

何時間練習したら腱鞘炎になるの?

具体的に「何時間で腱鞘炎になる」というのは、決まっていません。
完治までにかかる時間と同様、その人の仕事や練習方法によって変わるからです。
同じ時間練習をしても、正しい姿勢や力加減で演奏する人はほとんど腱鞘炎になりません。
反対に、弾き方に悪い癖がある人は簡単に腱鞘炎になってしまいます。

練習後に痛みを感じる場合はまだ大丈夫ですが、練習中から痛い場合はすぐに改善した方が良いです。
あまりにも酷いと、ピアノを弾いていられなくなります。

腱鞘炎を引き起こす原因となる、ピアノ練習法

では、腱鞘炎の原因となるピアノの練習方法はなんでしょうか。
ピアノの悪い練習方法を6つ解説します。

長時間でも休憩を挟まない

ピアノは1曲5分前後かかるため、通しながら気になる箇所を練習していると、あっという間に1時間が経ちます。
少しでも疲れを感じたら休憩を取り、手を休ませましょう。
手だけでなく背中や肩、足腰などもストレッチをすることで、より柔らかく身体を使えます。

一見離れているように見える足腰も、ストレッチを行わずに固いままだと、少し遠い音を弾くときに別の部位でバランスを取ろうとします。
この積み重ねが、姿勢を崩して無駄な負担をかけるのです。

力みすぎている

連符に集中したり強弱を付けたいときに、肘から手先のみが力んでいると腱鞘炎になりやすいです。
手先ばかり力んでしまうと音の響きや鳴り方も変わり、本人も身体を壊して悪いことだらけです。
力加減が2倍だと、手にかかる負担は約5倍にもなります。

また腱鞘炎の中でも、ばね指(指に起こる腱鞘炎)になりやすいです。
私も連符の時に力みがちで、ある程度継続していたら指がカクカクと動くようになり、ばね指になっていました。
早いうちに気が付いたため、1週間程度で症状も治まり問題なくピアノを弾けています。
しかし、捻挫のように腱鞘炎も癖になりやすいようで、少し無茶な練習が続くとカクカクとした動きになってしまいます。

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手のケアをしない

練習前後で手のケアを行わないと、腱鞘炎や攣ってしまう原因になりやすいです。
「音楽はスポーツ」という言葉があるように、一見おとなしそうに見えてもかなり動き、カロリーも消費します。
そのため、スポーツのように準備運動とアフターケアをしっかり行いましょう。
ピアノ練習後も、手にかかる負担や疲れをしっかり取らないと、無茶な練習をしなくても積み重なって腱鞘炎になる可能性があります。
特にストレッチは腱鞘炎を防ぐだけでなく、手首や指が柔らかくなることで音色や和音時の可動域も格段に良くなります。

下部雑音を出している

下部雑音とは、鍵盤を底まで叩いた時に鳴るゴンという音です。
この下部雑音は、正しい力加減で演奏している人やプロなら発生しません。
発生してしまう理由の1つに、無駄な力がかかっていたり、ピアノと体の高さがあっていないことも挙げられます。
ピアノと体の高さがあっていないと、腱鞘炎だけでなく背中や肩、首の骨も歪みやすくなります。

しかし鍵盤の軽い電子ピアノは例外です。
電子ピアノは優しく叩いても、下部雑音が出てしまうのでそれほど気にしなくて大丈夫です。
とはいえ、あまりに強く叩いてしまうと鍵盤がへこんだり、音の鳴り方に異変が生じるのである程度丁寧に扱いましょう。

練習内容が実力と合っていない

「早く上達したい」という思いからストイックに練習すると、身体への負担が大きく腱鞘炎になってしまいます。
どんなに姿勢や力加減などの弾き方が正しくても、疲れは確実に溜まるものです。
ストイックに練習すると達成感もあり楽しいですが、身体のSOSを無視しやすいんです。

私は合唱コンクールでピアノ賞を取りたいがために、夏休み期間は最低10時間も練習をしていました。
ピアノから離れるのはご飯とトイレの時のみ、それすらも早く終わらせようと急いで食べていました。
1日でこなす量と目標を高く設定しすぎると、身体のSOSに気が付かず肝心な時に怪我をしてしまいます。

ピアノの種類が合わない

ピアノの種類は、メーカーではなく鍵盤の重さに着目します。
鍵盤の重さは型番や種類などによって異なり、経験者でも「重い」と感じるピアノがあるんです。
子どもや初心者、華奢な女性などは、重い鍵盤で弾き続けると身体への負担がより大きく腱鞘炎になりやすいです。
また、手首よりも指に痛みが出るばね指の可能性が高くなります。

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腱鞘炎の予防方法

腱鞘炎を予防する方法と、練習時から気を付けられるポイントを解説します。

演奏姿勢を見直す

背筋や首、肩、腕や手首の角度など、ピアノを演奏するときの基本姿勢を見直しましょう。
正しい演奏姿勢はピアノ椅子の前3分の1だけに腰掛け、腕は鍵盤と水平になるようにします。
特に腕の角度と距離が大切で、分かりにくい場合は手首が横から見て真っ直ぐになっているかを確認すると良いです。
手首の角度だけなら、椅子に座ったままでも確認ができます。

初心者も5回以上練習するとピアノのある環境に慣れて、姿勢が崩れがちです。
3か月に1回は演奏姿勢を見直すと癖になる前に、より美しい音色と見た目を維持できます。

力加減の練習をする

力加減を習得することで強弱など表現の幅が広がり、身体も楽な状態で演奏ができます。
練習方法は単純で、同じ曲や基礎練習をピアニッシモ(物凄く小さい音)から徐々に音量を上げ、最後はフォルテッシモ(物凄く大きい音)で終了です。
あくまで力加減に慣れるための練習なので、曲中で強弱を付けるのではなく、1曲全てを同じ大きさで演奏しましょう。

この時、肩の力をしっかり抜くことも意識すると良いです。
手先だけに集中すると、肩が上がって凝り固まり、結果的に腕も動かしにくくなってしまいます。

大きな筋肉から使う

大きな筋肉とは、手先で演奏するのではなく上半身を使うことです。
骸骨をイメージすると分かりやすく、手先には細かい骨が集まっているため繊細な動きになります。
対して腕や背中は1つの骨が大きいため、動きに制限があります。
手先ばかり意識して鍵盤を動かすと大変ですが、背中や肩、腰など上半身全体で動かせばかなり楽です。
表現の幅も広がり、身体を楽にしつつ豊かな演奏ができること間違いありません。
難易度の高い曲こそ、大きな筋肉を意識して柔らかい演奏にしましょう。

練習前後にストレッチをする

ピアノの練習前後に手首や指、肩甲骨、首のストレッチをしましょう。
肩甲骨は肩回しや、手を後ろに組んで上下に揺らす方法で十分です。
首もゆっくり回したり、自重でじんわり前後左右に倒します。

中でも手首や指のストレッチは念入りに行います。

① 力を抜いた状態で、親指から小指の順番で指を1本ずつ反らす。
この時、ゆっくり痛気持ちいいところまで行い、じんわりと痺れや温かさを感じたら元に戻します。

② 順番に反らし終わったら、指5本をまとめて反らす。
これも戻す目安は同じですが、親指が外れがちなのでどうしても難しい場合は、親指のみ①と同じ方法で大丈夫です。

③ 最後に握りこぶしの方向へ、指を伸ばしたままじんわりと押す。
反らした時と同じ感覚で行うので、最初に③をすると関節の曲がり方が分かりにくい可能性があります。

全ての部位において、ストレッチは温めた後が効果的です。
私の感覚ですが手首に関しては、湯舟やシャワーで温めながら行うと即効性もあります。

腱鞘炎になった時の治療法とは?

腱鞘炎の治療法は、大きく分けて4つです。
ストレッチ、病院治療、テーピング、サポーターを詳しく見ていきましょう。

セルフ治療(初期段階)を行う

初期段階であればセルフ治療の湿布やストレッチで十分です。
ストレッチは先程紹介した方法で、作業中も痛いようなら湿布も貼ると良いです。
湿布は人によって、肌に合わずかぶれたり赤くひりついてしまうこともあるので、不安な人は病院で処方してもらいましょう。

病院(整形外科)に行く

病院に行く場合は、整形外科を受診します。
人によっては注射でステロイドを打つ場合もあります。
私は手首の腱鞘炎が悪化してガングリオンになったため、注射で水抜きをしました。
小さい水溜まりがたくさんあり、何度も注射を打たないとならないため、私は治療を辞めてセルフでできる方法に切り替えました。

このように、同じ整形外科に行っても湿布を貰うだけから注射や手術まで対応は様々です。
「必ずこの治療法」という事は言えませんが、受診する場所と可能性のある対応だけを把握しておくことも大切です。

テーピングをする

痛みが少し進行しているようなら、テーピングもおすすめです。
親指の付け根と手首を固定し、テープを引っ張りながら貼るように意識すると上手くできます。
テーピングのやり方は、この記事を参考にしてみてください。

しかし、テーピングは肌に直接貼るため、かぶれやすいです。
腱鞘炎に加えて別の症状まで出てしまっては意味がなく、肌の弱い人にはおすすめできません。

筆者がおすすめする商品

スリーエムのキネシオロジー マルチポアスポーツ レギュラーは、手首に最適な25㎜幅のテーピングです。
スポーツでも取り入れられており、テーピングをしたままシャワーに入っても大丈夫な優れものです。
70デニールの綿布でしっかりした生地ですが、かぶれにくさと通気性も追及されています。

サポーターをつける

サポーターは、テーピングができない人にもおすすめできる方法です。
すでにある程度形になっている物を、手に巻くだけなので極端にかぶれることもありません。
夏場に汗をかいても簡単に取り外せて、使い勝手も良いです。
手首の角度を固定して、過度な動きと衝撃から守ります。

筆者がおすすめする商品

Aorskyの手首サポーター 全包囲ワイドタイプは、整形外科専門医とブレースデザイナーの共同開発で生まれた商品です。
洗濯機も対応しており、付け外しから交換まで気軽に使えます。
ブラック、グレー、ベージュの3色展開なので、職場で付けたい人もスーツの邪魔をせずに着用できます。

ピアノ練習はポイントを押さえて腱鞘炎を回避しよう!

腱鞘炎はピアノやパソコン操作、スマホ、スポーツ、飲食店(ホール)、育児や家事、執筆(勉強)、力仕事、美容師など手を酷使する場合に起こる病気です。
手首や指に鋭い痛みが走り、悪化するとスマホ操作も痛くて嫌になってしまいます。

腱鞘炎と筋肉痛を見分けるためには、セルフチェックをしたり2週間程度様子を見次第、対処に移すことが大切です。
決まって「何時間、手を酷使したら発症する」というのはありませんが、ピアノの悪い練習方法は押さえておきましょう。

  • 長時間でも休憩を挟まない
  • 力みすぎている
  • 手のケアをしない
  • 下部雑音が出ている
  • 練習内容が実力と合っていない
  • ピアノの種類が合わない

これらを知ったうえで、ピアノ練習をより楽に長く行えるポイントも伝授します。

  • 演奏姿勢を見直す
  • 力加減の練習をする
  • 大きな筋肉から使う
  • 練習前後にストレッチをする

それでも腱鞘炎になってしまった場合は、セルフから病院までの治療法を実践してみましょう。

  • 湿布
  • ストレッチ
  • 整形外科
  • テーピング
  • サポーター

手の負担を少なくして、より長くピアノを楽しんでください。

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