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歴史|ピアノの前身楽器って知ってる?現在のピアノはいつ発明されたの?

Written by
2023.11.16
かしま あづみ
【執筆・監修】かしま あづみ

クラシックピアノをこよなく愛するフリーライター。子どものころピアノを習うも挫折。それでもピアノへの愛着は捨てられず、ピアノ曲を聞いたりコーラスを通してピアノと関わっています。一人でも楽しめるだけでなく、オーケストラの代役にもなるピアノの魅力を、記事を通し伝えたいと奮闘中。

ピアノの前身となった楽器を知っていますか?
現在でも演奏を耳にする機会のあるチェンバロはその一つですが、もう少し時代をさかのぼると起源はたった1本の弦楽器から始まっています。
1弦の楽器がどうしてピアノへと進化したのか、不思議ですよね。
今回はピアノの前身である楽器を順を追って紹介していきます。
最初は家庭で楽しむ楽器として始まったピアノの歴史は、サロンで演奏する楽器となり、やがてコンサートホールでの演奏へと進化してきました。

また、ピアノの進化はヨーロッパの歴史とも深い関りがあります。
ヨーロッパでの戦争や革命は職人の移住や社会の構造の変化をもたらしました。

今回は、そんなピアノの背景にも注目しながら歴史をひもといていきましょう!

最初にピアノができたのは?

クリストフォリのピアノ

引用:ニューヨークメトロポリタン美術館

この写真は現在のピアノの原型となったピアノです。
1709年、イタリアのバルトロメオ・クリストフォリという楽器製作家が開発しました。
名前は「クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ」。
弱い音(ピアノ)も強い音(フォルテ)も出せるチェンバロという意味の名前です。
それまでポピュラーだったチェンバロを改良し豊かな表現ができる楽器となっています。

ピアノの先祖ともいえるチェンバロは、弦を弾いて音を出すため、音の強弱をつけられないことが欠点でした。
クリストフォリの開発した「クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ」は弦をハンマーで叩く構造にしたことで、強弱をつけることが可能になりました。

現在のピアノがピアノと呼ばれるようになったのは、このクリストフォリの「クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ」に由来しています。

現在のピアノと違う主なポイントは次のとおりです。

  • 弦を叩くハンマーは革製
  • 鍵盤の数が少ない
  • 弦の張力は現在のピアノより弱い
  • シンプルな跳ね上げ式

1995年、浜松の河合楽器製作所がクリストフォリのピアノを復元しました。
こちらの動画では、復元したクリストフォリのピアノの音色が聞けます。

アクション部が跳ね上げ式になっています。音はチェンバロに近いですね。

表現が豊かなクリストフォリのピアノでしたが、すぐには普及しませんでした。
一般的になるには数十年かかっています。
当時の鍵盤楽器としては、まだまだチェンバロが主流でした。

1730年代になって、ドイツのオルガン制作者である「ゴットフリート・ジルバーマン」がクリストフォリのピアノを元に制作をはじめました。
その後、ジルバーマンの弟子たちによって改良が加えられ、現在のピアノへの進化が始まります。

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ピアノの元となった楽器はこれ!

クラヴィコード

引用:ニューヨークメトロポリタン美術館

ピアノの元となった楽器は、弦楽器のモノコード(一弦琴)が始まりといわれています。
ピアノは鍵盤楽器といわれることもありますが、弦を鳴らす楽器であることから弦楽器の仲間でもあります。

時代が移り変わるにつれてモノコードは、弦の本数を増やし長さを変えることで豊かな表現ができるようになりました。
さらに、演奏方法も進化していきます。
弦を使った演奏方法は3つあり、音の出し方によってさまざまな楽器へと枝分かれしました。

音の出し方 特徴 代表的な楽器
擦弦(さつげん) 弦をこすって音を出す バイオリンなど
打弦(だげん) 弦を叩いて音を出す ダルシマー、ピアノなど
撥弦(はつげん) 弦を弾いて音を出す ハープシコードなど

モノコードから発展した複数の弦を持つ楽器は、それぞれの音の出し方によって枝分かれしていきます。
このうち、ピアノの元となったものは、打弦と撥弦を使った楽器です。

それでは、モノコードから枝分かれしたピアノの元となった楽器ともいうべき2つを紹介します。

  • ツィンバロン
  • プサルテリウム

ツィンバロンはハンガリー地方で用いられている弦を叩いて音を出す民族楽器です。
紀元前から使われていた楽器ですが、民族の大移動などによって次第にヨーロッパに広まったといわれています。

ツィンバロンの演奏動画はこちらです。

ツィンバロンはその後、鍵盤を持つクラヴィコードの元となったといわれています。

もう一つ、ハープシコード、チェンバロの前身といわれている楽器としてプサルテリウムがあります。

プサルテリウムは、指やプレクトラムで弾いて演奏する楽器です。
天使の楽器といわれるプサルテリウムは、11世紀に中近東からヨーロッパに伝わったとされています。
プサルテリウムはやがて、撥(ばち)のようなもので叩いて音を出す形に進化し、複雑な表現も可能なダルシマーと呼ばれる楽器となりました。

こちらの動画ではハンマーダルシマーとプサルテリウムの両方の演奏が聞けます。

ダルシマーの演奏はこちらからご覧ください。

それでは、ツィンバロンとプサルテリウムの次世代の楽器3つを紹介しましょう。

  • クラヴィコード
  • ハープシコード
  • チェンバロ

14世紀頃になると、鍵盤がついてピアノに近い形になってきます。

それでは、この3つについて詳しくみていきましょう。

クラヴィコード

ピアノの元となった楽器の中で一番最初に現れたのがクラヴィコードです。
13世紀から14世紀の間に開発されたといわれています。
残念ながら、開発者が誰かははっきりしていません。

クラヴィコードの特徴は次のとおりです。

  • テーブルに置ける大きさ
  • 音は小さいが強弱はつけられる
  • 鍵盤を揺らすとビブラートがかかる
  • 鍵盤数が少ない(3~5オクターブ)

家庭で楽しむのにちょうどいい大きさですね。
音も小さくテーブルに置いて楽しめる手軽さも魅力です。

音が出るしくみ

鍵盤を押すと、鍵盤の先にあるタンジェントと呼ばれる金属の板が弦を押し上げることによって音が出る

クラヴィコードは、小さいので旅行先にも携帯できたそうですよ。

バッハはこのクラヴィコードをとても気に入っていたようです。

ハープシコードとチェンバロ

ハープシコードやチェンバロが誰によって発明されたかは諸説ありますが、14世紀には作られていたようです。
15世紀には鍵盤楽器として広まり18世紀には最盛期を迎えました。

ハープシコードとチェンバロは実は同じ楽器です。
国によって呼び方が変わります。

イギリス ハープシコード
ドイツ チェンバロ
フランス クラヴサン
イタリア クラヴィチェンバロ

ハープシコード、チェンバロの特徴は以下のとおりです。

  • 弦を弾いて音を出す
  • 音が小さく強弱がつけられない
  • 音が狂いやすい
  • 鍵盤が2段のものもある
  • ボディに絵画が描かれている

音を出すしくみ

鍵盤の奥のジャックについている爪(プレクトラム)が弦を弾いて音を出す

ハープシコードはグランドピアノと同じような形をしています。
家の調度品となじむように画家によって絵が描かれていたようです。

当初、ピアノの鍵盤は白黒真逆だった?

ハープシコード

ピアノの前身であるハープシコードやチェンバロを紹介してきましたが、鍵盤の色が現在のピアノの白鍵黒鍵と逆でしたよね。
当初のピアノはどちらだったのでしょうか?
モーツァルトやベートーヴェンのお気に入りだったというピアノのレプリカが2004年に作られています。

動画で演奏されているレプリカのピアノはチェンバロなどと同じく白黒が逆になっていますね。
なぜ、白黒が逆だったのか、本当のところはわかりませんが、理由としては次の3つが考えられます。

  • 白鍵に使う象牙が高価
  • 黒鍵に黒檀を使用することで鍵盤を軽量化する
  • 女性の白い指を際立たせるために黒鍵にした

確かに象牙の鍵盤は、高価な上に重そうですよね。

ピアノの鍵盤が現在のような白鍵黒鍵に変化したのは、19世紀に入ってからでした。
こちらの理由もはっきりしていませんが、次のようなことがいわれています。

  • 白鍵を多くした方が見た目がいい
  • 財力を示すため高価な象牙を使った

産業革命によって人々の暮らしが豊かになったのもこのころです。
ピアノの品質も格段に良くなりました。
財力を蓄えた富裕層が象牙のピアノを望んだのかもしれませんね。

現在のピアノができたのは?

現在のピアノ

ここからは現在のピアノが生まれるまでの歴史を見ていきましょう。
ピアノが誕生してから約30年後、ドイツのオルガン制作者であるゴットフリート・ジルバーマンが「クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ」を制作しました。
しかし、当初のピアノはタッチが重く高音も弱いのが欠点でした。
ジルバーマンはクリストフォリのピアノの実物に触れて改良を重ね、品質を向上させていきます。

1745年、ジルバーマンが改良を重ねたピアノはバッハに絶賛されるまでになりました。

その後18世紀後半から起こった産業革命によって、ピアノはさらに進化を遂げていきます。
産業革命によって、金属を使いピアノのボディが強化され、弦も以前に比べて強い力で張ることが可能になり、現在のピアノの形へと進化しました。

ピアノの魔術師といわれたリストが活躍したのは19世紀です。
リストは演奏会に予備のピアノが必要なくらい激しい演奏をしましたが、その演奏に耐えうるピアノができたのも産業革命によるところが大きいといえるでしょう。

産業革命後のピアノ

  • 革製ハンマーからフェルトハンマーになり音が安定
  • 金属フレームによって強い力で弦が張られている
  • 低音を響かせる太い弦
  • 鍵盤数は82鍵

産業革命は、高価な楽器であったピアノの大量生産を可能にしました。
それまで貴族のサロンなどで弾かれていたピアノは、コンサートホールでも使われることが多くなっていきます。

スクエアピアノの誕生

シーボルトピアノ

引用:公益財団法人熊谷美術館

ジルバーマンの死後、ヨーロッパで起こった戦争を逃れてイギリスに渡った弟子の一人であるヨハネス・ツンペは、スクエアピアノを制作します。

文字通り、四角い形をした小型で経済的なスクエアピアノは、当時ではめずらしく大量生産され、イギリスを中心に普及しました。
アクション部分はクリストフォリのピアノとは少し違いますが、跳ね上げ式という点では共通しています。

このスクエアピアノは、シーボルトが日本に持ち込んだピアノとしても有名です。

グランドピアノの誕生

グランドピアノ

ジルバーマンのピアノを現在のグランドピアノへと進化させたのは、ジルバーマンの工房で修業していた弟子のヨハン・アンドレアス・シュタインです。
シュタインは、クリストフォリのピアノのアクションを元に改良を重ね「ウィーン式跳ね上げアクション」を開発しました。

シュタインのピアノはチェンバロと同じ形、つまり現在のグランドピアノと同じ形をしています。
モーツァルトはシュタインのピアノをとても気に入っていたと伝えられています。

アップライトピアノの誕生

キャビネットピアノ

引用:民音音楽博物館

グランドピアノの弦を鉛直方向に伸ばした形のピアノが18世紀後半に生まれます。
単純に鉛直方向に伸ばしたピアノはかなり高さがあることが欠点でした。
19世紀には交叉弦を下向きに張ることで、ピアノのコンパクト化に成功し、アップライトピアノが生まれました。

それまで家庭用として使われていたスクウェアピアノは、アップライトピアノにとって代わられてしまいます。

理由は2つです。

  • スクウェアピアノは連打が難しい
  • スクウェアピアノは音量が出ない

小型ながら十分な音量と音質を兼ね備えたアップライトピアノは、家庭用ピアノとしてスタンダードになっていきました。

ピアノは歴史とともに進化した

ピアノ 歴史 まとめ

ピアノはモノコードという弦楽器から進化していきました。
時代とともに弦の本数が増え、演奏の仕方も弾く、叩くなど変化していきます。

ピアノの前身楽器としては、クラヴィコードが最初です。
弦を弾かせて音を出す小型の鍵盤楽器で、家庭や旅行先で演奏されていました。

その後、クラヴィコードはさらに進化して、ハープシコード、チェンバロなどと名前を変えながらヨーロッパ諸国に広まります。

1709年イタリアのクリストフォリによってピアノの原型ともいえる「チェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ」が発明されました。

しかし、すぐに普及することはなく30年後にジルバーマンが制作を始め、18世紀後半からの産業革命によって、目覚ましい進化を遂げます。

現在はデジタル機能を搭載したピアノも登場していますよね。

これからのピアノの進化もわくわくしながら見ていきたいですね。

 

参考文献

  • ピアノの発明と発達 : クラヴィアからピアノフォルテへの系図 その1
  • 西口磯春 - 日本音響学会誌, 2009
  • ピアノの発明と発達 その3 ─モーツアルトの時代とフォルテピアノの製作家たち─(THE INVENTION AND DEVELOPMENT OF PIANO(PART3) ─THE MAKERS OF FORTEPIANO IN THE TIME WHEN MOZART LIVED ─)

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